2024年12月23日(月)

ちょっと寄り道うまいもの

2012年5月3日

 わざわざ、そこに出かけていかないと食べられない土地の味。

 今は、それが消失した時代ではあるまいか。流通の進歩と冷蔵、冷凍などの保存技術の発達等々で、遠方でも産地と同じものが食べられるようになった。内陸部の宿のマグロの刺身とエビフライに頭を抱えたことがあったが、思えば、東京でも同じことだ。その土地の人々にとっては、土地にはないものだからこそ、ご馳走なのかもしれない。まあ、よそからのお客には出さないで欲しいが。

 寿司ブームで、世界中で寿司が食べられるようになったのも同じことだろう。そこでしか食べられない土地の味が少なくなったとついつい嘆きたくなる。季節感、旬の喪失という問題と合わせて、寂しく感じないでもない。

 「いやいや、そんなことはない」

 何でも手に入る、食べられるようになっていると思うのが、都会の人間の傲慢だという声が地方の友人から上がる。例えば、と鳥取で教えられたのがモサエビ。正式名はクロザコエビというらしいが、鳥取あたりではモサエビ、ドロエビと呼ばれるエビである。東京では食べられない幻のエビ。味は甘エビなどよりずっと上。そのとろけるような甘さ、旨さといったら……と。

美しい鳥取砂丘

 どうせ試すなら、海も見ようと、薦められた岩美町へ。鳥取県でも東の端、兵庫県に隣接するところである。浦富(うらどめ)海岸、その島めぐり遊覧船。これに乗って、絶景を眺め、その上で食べてみてと土地の友人。

 残念。訪ねた時は海が時化(しけ)で船が欠航。しかし、鳥取からその岩美町に向かう海岸線を眺めただけでも来た甲斐があったという絶景。あの有名な砂丘の先にあるのは、劇的な変化のある美しい海岸線だった。

 乗れなかった遊覧船の船着き場にある「お食事処 あじろや」でモサエビと対面した。多少、ごつごつとして武骨な印象も受けるが、大正エビほどのサイズの普通のエビである。

 何はともあれ、食べてみよう。刺身の盛り合わせや、宴席の個人鍋のあの燃料で温める鍋に石を敷き、ハタハタや小ぶりなイカをのせて蒸し焼きにした一品などのセットに、モサエビも入っているというので、それを注文してみる。

 刺身はねっとりと甘い。確かに甘エビよりも官能的に甘い。旨い。火を通したものは、心地よいぷりぷりの食感。ハタハタやイカも良かったが、モサエビの新鮮な味わいが何よりよろしい。そうそう、味噌汁も。よくよくだしが出るエビである。滋味。

 それにしても、何故、この美味しいエビが地元でだけ、消費されるのか。出てきてくれないのか。鳥取県水産振興室の秋山賢治さんや網代漁協の浜納栄治さんに聞くと、一つには見た目なのだという。


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