さらに、同地域で頭を悩ましているのが医療物資の不足だ。「マスクやガウンといった使い捨ての衛生用品を1日1枚にするなど、通常の3分の1もしくは4分の1ほどに使用量を抑えている」という。
周辺の診療所やクリニックはさらに深刻で、「手袋がない、フェイスガードがないっといった声も聞こえてくる。消毒薬の代替品として、工業用エタノールにグリセリンを混ぜたりキッチンハイターを薄めたりしてお手製のものを作るといった対応もしている」という。
統一されない訪問看護や介護とのチームでの対応
地域の在宅・総合医療は、医師だけでなく、訪問看護師や訪問介護員らがあってこそ成り立つ。看護や介護について葛西氏は「すべての従事者にまだ安全の情報が行き渡っていない」と語る。「安全のために優先度の低い訪問は減らすことを推奨されているが、訪問看護・介護をこれまで通りの回数で行っているという話も聞く。本当に必要な頻度なのか。チーム全体で安全なケアのやり方について情報を共有し、訪問せずに、電話やオンラインで状況確認する工夫も必要だ」と指摘する。
また、岩間氏は「訪問看護や介護の従事者の感染予防に関する知識や対応が統一されていないことによって、適切な感染予防ができていなかったり、過度に物資を消耗していたりしている」と話す。例えば、新型コロナの感染を防ぐために本来なら、たんの吸引の時にマスクやゴーグルに加えキャップやガウンも必要で、体位交換の際は袖口のカバーや手袋をした方が良い。しかし、通常、そういった作業をする時はそこまでの装備をしていない。これは、訪問看護や介護者が患者と近い存在にいるという良い面でもあるのだが、現在のような感染症が流行している時期には好ましくない。
対して、問診や状況確認を行う場合は、従事者と患者がお互いマスクを着用していれば感染リスクはほとんどないのだが、不安に思って接触する時に毎回ガウンやキャップをしてしまうという状況も散見するという。「感染症のリスクがある中での対応で、怖いことは仕方がない」と岩間氏はおもんぱかるが、「ただでさえも物資の供給が足りていない中で、使いすぎてしまっては、本当に必要な時に必要な物資を残せない」と懸念する。
こうした医療機器の取り扱い方も、正しいやり方でないと意味をなさなくなる。マスク一つとっても、取り外しの時にウイルスが付いた部分を触らないようゴムを触らなければならない。ガウンやキャップについても、適切な手順で装着しないと感染予防ができなくなってしまうという。
地域総合医療は医療、看護、介護の一つでも欠けてしまえば、足元から崩れてしまう。従事者がコロナに感染してしまったり、物資を不足させてしまったら、そこには崩壊が待ち受ける。医療と看護、介護が一連となる知識の共有や対応の連携が必要とされている。