マレーシアには9万人のロヒンギャ難民
マレーシアを代表する華字紙『星洲日報』の論調からは、「マレーシアの移民政策は公平とは言い難い。国境管理もずさんである。加えて社会の中核を形成する宗教的要因から数年来、マレーシアはロヒンギャ族にとって楽園と化した感が強い。現状が改められないなら、近い将来のマレーシアはロヒンギャ族の天国になってしまう」との考えが垣間見えて来る。同紙の華人社会における影響力からして、これがマレーシア華人社会における世論の最大公約数といったところだろうか。
国連当局によれば、2019年4月現在でマレーシアには57カ国17万人強の難民が庇護を求め滞在し、そのうちの15万人弱がミャンマーからの難民で、ロヒンギャ族は9万人超を占める、とのことだ。
9万人程度ではマレーシアがロヒンギャ族の天国になるとは到底思えない。だが、新型コロナ問題がマレーシアの難民政策に少なからぬ影響を与える可能性は考えておくべきだろう。
マレーシアも他国と同じように、新型コロナ対策に多大の出費を覚悟しなければならないはず。であればこそ、すでに受け入れた17万人強の難民の扱いが大きな負担となって国家財政を圧迫する可能性は大だ。
難民に対しこれまでと同程度の待遇を継続した場合、国家財政に少なからぬ打撃を与える。だからといって彼らに対する支援のレベルを下げた場合、欧米諸国からの反発は必至だ。だが国内世論を無視することができるわけではない。
ムヒディン政権は2月末から3月初頭にかけての混乱の渦中で“棚ボタ式”に誕生した印象が強く、それだけに政権基盤は必ずしも盤石と言うわけではない。ムヒディン首相自身、マハティ―ル前首相のように確固として政治哲学、将来を見据えての政策ビジョンを持ち合わせていることは期待できそうにない。政権発足直後、政権中枢の過去の言動からしてマレー人優先・人種偏見の政治姿勢を危惧する声が早くも上がっていた。
いわば“慣らし運転期間”にもかかわらず新型コロナという大難題に直面したムヒディン政権にとって、ロヒンギャ族難民の取り扱いの仕方によっては内外からの批判を避けられないだけに、やはり問題の取り扱いは慎重の上にも慎重でなければならないはずだ。
いずれASEAN10カ国が共に新型コロナを抑え込み、東南アジアは「新型コロナ後」の時代を迎える。その時、東南アジアは我われの目の前に、現在とは全く違った風景となって立ち現れるだろう。日本は、その時に備えておく必要がある。
この問題が優れて国際政治に直結し、「新型コロナ後」の国際社会における我が国の“立ち位置”を左右するであろうことを考える時、新型コロナ感染問題をいつまでもPCR検査がどうの、「出口戦略」がどうのと言った内向きの医療問題として捉えてはいられないことに早く気づくべきだ。
ロヒンギャ問題は、新型コロナの発生によって新しい局面を迎えた。マレーシアが直面する“新しいロヒンギャ問題”は、「新型コロナ後」の東南アジアの姿を暗示しているように思う。
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