Wedge REPORT

2020年5月15日

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永井隆 ((ながい・たかし))

ジャーナリスト

1958年群馬県桐生市生まれ。明治大学卒業後、東京タイムズ記者を経て、1992年にジャーナリストとして独立。雑誌や新聞、ウェブで精力的に執筆する。著書に『移民解禁 受け入れ成功企業に学ぶ 外国人材活用の鉄則』『EVウォーズ』『アサヒビール30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など。

ビールへと主戦場が移った矢先のコロナ禍

 もっとも、昨年10月の消費増税を境に、商戦の方向は実は変化していた。9月までは安価な第3のビールが中心だったのが、10月以降はビールへと主戦場が移っていたのだ。

 その理由は、酒税改正が今年10月に予定されているから。ビール、発泡酒、第3のビールと三層ある税額が、2020年10月、23年10月、26年10月の三段階で統一されていく。

 350ミリリットル当たりの税額は現在、ビール77円、第3のビール28円と3倍近い開きがある。これが今年10月、ビールは7円減税され、第3のビールは9円80銭増税される。23年10月を経て、最終的には26年に54円25銭で統一される(発泡酒も26年に7円26銭増税される)。第2段階の23年10月には、第3のビールという区分はなくなり、ビールと発泡酒だけになる。税額の統一は、財務省主税局にとって1994年に発泡酒が世に出て以来の悲願だった。

 ビールが減税されていくため、「ビールの強い会社が優位になる。ただし、26 年に税額が統一されても、原材料を工夫するなどで価格の安い商品は残る」(ビール会社社長)というのは、一致した見方でもあった。

 なお、数年前までビール類の約3割は業務用で、残りは家庭用とされてきた。しかし、最近では業務用の比率は減り、25%強程度と見られている。

 業務用のほとんどは、ビールだ。ビール類のほぼ半数はビールが占めるため、コロナ禍前の昨年ならば、ビールの半分強は業務用となる(外食で発泡酒や第3のビールを供するのはごく一部)。

 4社はビール強化策が求められていた。特に過半を占める業務用は、一度店に樽サーバーを入れれば、簡単には他社に入れ替わらない。来店客が、家庭で飲むビールの銘柄をかえてくれるケースもある。このため、昨年の後半は「メーカーから飲食店に協賛金や出資金が流れ、商戦が荒れていた」(外食コンサルタント)という環境になっていた。

 しかし、これは今にして思えば、牧歌的な攻防だった。大手4社はビール強化へと動いていた矢先に、予測不能なコロナ禍が拡大してしまったのである。

 飲食店関係者は次のように話す。「今は生死をかけるほど、飲食店はどこも深刻な経営状況。営業利益率が10% に満たない飲食店は大半。50席の居酒屋ならば、できる限り客を入れたいのが本音。ところが、3密(密閉・密集・密接)を避けるよう配慮しなければならない上、何より来客がない。一等地にある店やチェーン店の方が家賃など固定費負担は大きく、厳しい環境に直面している」。ビールメーカーの協賛金に頼っていた飲食店は、厳しさがさらに増している。メーカー自体が、これから生き残りを模索しなければならない。

 コロナ後がいつ来るのか。さらに、コロナ禍によりサラリーマンのライフスタイルは変わり、“家飲み”がこのまま定着していくのか。先はまるで読めない。ビールの構成比が3割という状態が長期に継続したなら、飲食店もメーカーも苦しさを増す。

 酒税改正を前に、ビール4社の正念場は続く。

  
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