この熱き人々

2020年6月25日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

◉くわた みさお:1927年、青森県生まれ。89年から作り始めた笹餅が地域で評判となり、2002年、75歳のときに「笹餅屋」の屋号で起業する。地元の素材だけで丁寧に手作りする完全無添加の笹餅は、東北だけでなく全国にファンをもつ。

 太宰治の生家「斜陽館」からほど近い青森県五所川原市金木町に、津軽に伝わる笹餅を作る津軽名物の桑田ミサオばあちゃんがいる。75歳で「笹餅屋」という屋号で起業した事務所兼作業場では、今年93歳になったミサオばあちゃんがこの日も黙々とひとりで笹餅を作り続けていた。

 
 

 四角い蒸し器から湯気が上がり、餅粉とこし餡を混ぜた生地が蒸し上がると、まだ熱い生地を1個分の量に分けていく。まるで計ったように同じ大きさの小さな玉が次々と生まれ、それらを手際よく鮮やかな緑の笹で包むと、再び1分程度蒸して出来上がり。なめらかな食感と、やわらかな甘味。笹の葉の先をちょっとだけ出してそれを引っ張ると手を汚さずに食べられる細やかな気遣いがうれしい。

 
 

 「笹餅の作り方はかっちゃに教えてもらったんだけど、かっちゃは1度しか蒸さなかった。どうしたらもっとおいしい笹餅さできるかずっと考えながら作ってきて、今の作り方になったんだ」

 母から教わった作り方は、生地を笹に包んでから蒸すので蒸し時間が長くなる。するとどうしても笹の葉の色が悪くなってしまう。こし餡と餅粉を水で合わせた状態のまま包むにはある程度の固さが必要になって、食感のやわらかさに欠けてしまう。それらをどうしたら解決できるか。餅米を製粉する時に2度挽きし、さらに何度もふるいにかけてこし餡と混ぜるとなめらかになる。生地を寝かせる時間は1時間がベストで、とろとろの生地だけを1度先に蒸すという答えを見出した。

 「自分で納得できるものになるまで5年くらいかかったかな」

 子供の頃から慣れ親しんだ味に満足せずに、もっとおいしくしたいという思いの強さと、長年のカンに頼るのではなく時間や分量を変えながら実験を繰り返して正解を求める科学的なアプローチに驚く。身長145センチと小柄な体で大きな自転車に乗り、朝7時半から作り始めて時には夜8時くらいまでほぼ立ちっぱなし。その体力にも驚く。自分が年間何個ぐらい作っているのか知らなかったが、伝票を数えてくれた人がいて、約5万個と判明したのだそうだ。5万個の笹餅を作る5万枚の笹は、笹藪に入ってひとりで採ってくるという。

 「笹を採るのは6月から8月のお盆くらいまでだね。6月の笹はいいのが少ない。7月8月は毎日のように山さ入って笹を集め、それをよぐ洗って水さ切って真空にして冷凍庫に入れるまでの作業で忙しいね」

 笹を採りに行く時のいでたちは、首まで覆う日よけ帽を被り、蜂から守る網を顔の前に垂らし、長袖のジャンパーに長靴。青森といえども最近は暑い日が多い。

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