2024年11月22日(金)

解体 ロシア外交

2012年6月8日

アフガニスタンの保護者がNATOからSCOに?

 さらに興味深いのは、会議の冒頭の基調報告で、胡主席が、「欧米の軍隊がアフガニスタンから撤収した後、わが上海協力機構が地域の平和と安定のために『平和維持部隊』を派遣する用意がある」と述べたことだ。しかも、同サミットでは、アフガニスタンのオブザーバー国申請とトルコの対話パートナー国の申請を受け入れることも合意された。これは、SCOが開放的な立場を堅持しつつ、多面的な対話を行うことで、地域と世界の外交問題で大きな役割と果たす意思の表明だとも言われた。

 だが、胡主席のアフガニスタン問題に関する発言には、プーチン氏も驚いたとも報じられている。胡主席の発言は、中国軍が、撤退しつつある米軍に代わり、アフガニスタンの安全保障を担うと宣言しているようなものだと捉えられた。胡主席の発言を表面的に受け取れば、アフガニスタンの保護者がNATOからSCOに代わることが宣言されたとも取れる。また、韓国のマスコミなどはこの動きを中露の軍事的関係の強化の表れとし、SCOがNATOに準ずる軍事同盟体として発展する可能性があるとして警戒している。

 しかし、中露はアフガン問題では利害を共有しているかどうかの判断は微妙だろう。前述のように、SCOサミット前に、ロシアとウズベキスタンもアフガニスタンの安全保障で協力することを約束していたことにも鑑み、ロシアとしては、アフガニスタン・中央アジアを含むユーラシアはロシアの影響圏であり、中国の進出は快く思えないはずだ。

 とはいえ、SCOの組織としての危機対応能力の強化を図っていく方針では一致をみている。やはり中国とロシアがシリアやイランへの制裁問題などの中東政策に代表される国際的な諸問題において、反米的な戦略をとっていることだけは明らかになったといえる。そして、SCOサミットの成果も大きく、「恒久的な平和を築き、地域を共同に繁栄させる宣言」など10の文書に調印がなされ、SCOの発展方向と構想を定めると同時に、地域の長期的平和や発展、テロや分離主義・過激主義を防止していくうえでの具体的方策が定められたのである。

ロシアに対抗する米国の動き

 他方、米国も同時に、反ロ的ともいえる外交を繰り広げていた。クリントン国務長官がプーチン氏の留守中を狙うかのように、ロシアのお膝元の南コーカサス三国を歴訪したのである。

 これはクリントン氏の北欧、南コーカサス三国、トルコの計7カ国を歴訪(5月31日~6月7日)の一部であるが、南コーカサス三国を訪問していた6月4~6日は、まさにプーチン氏の訪中日程と重なっていた。米国の国務長官が、このような小国を歴訪することは注目すべきことであるが、同様の歴訪は、2010年にも行われていた(拙稿「『リセット』後も紆余曲折の米ロ関係」参照)。

 この時と同様に、今回の歴訪も、ロシアを意識しての外交戦略であることは間違いなく、特に、昨年末にグルジアに対してロシアの世界貿易機関(WTO)加盟で妥協させたこと(拙稿「ロシア WTO加盟の舞台裏」参照)のお詫び行脚も兼ねていると思われる。しかし、ロシアにしてみれば、プーチン氏の留守中に南コーカサス、特に、敵対関係にあるグルジアにクリントン氏が訪問することは極めて不愉快であるはずだ。


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