2024年4月23日(火)

WEDGE REPORT

2020年5月26日

 現時点では、デジタル人民元の設計にブロックチェーンを利用する計画はないと中国では伝えられる。中国人民銀行の数字貨幣研究所長の発言や、中国人民銀行の元・副頭取の寄稿記事によれば、ブロックチェーンの要素技術の一部を援用することは否定しないが、ブロックチェーンを基盤とする計画のないことが強調されているのだ。この点について確たる情報はない。

 ただ、ブロックチェーン技術を利用するということは、リブラのようなグローバル・ステーブル・コイン(ビットコインやイーサリアムとは異なり、法定通貨に対する交換レートが安定しており、国際的に流通する民間デジタル通貨)と同じ領域において対峙することを意味する。ブロックチェーンを基盤とした経済圏というのは、デジタル通貨とアプリの2層構造になっている。

青か赤か 
リブラと対峙するデジタル人民元

 第一層のデジタル通貨はグローバルで共通化するが、第二層で動くシェアリングエコノミーなどのサービスは、国や地域ごとにローカライズして載せることができる。すなわち、世界の誰かが作ったサービスが優れていれば、それを他の地域でも応用することが可能であり、作者の知らないうちに世界に広がっていくかもしれない。このとき、一つのブロックチェーン技術を基盤としていれば、そこを流れるデジタル通貨は世界共通で揺らがない。

 このように、ブロックチェーン経済においてデジタル通貨は経済の土台を形作る。リブラを基礎としたブロックチェーンが世界で使われるようになれば、「青いカーペット」で世界が埋め尽くされる。デジタル人民元を基礎としたブロックチェーンが世界で使われるようになれば、「赤いカーペット」で世界が埋め尽くされる。

 いま北京には、従来型の技術とブロックチェーンの理想的な協力関係がある。デジタル人民元に適用されるのは中央集権型のモデルであって、分散型のブロックチェーンではない。その一方で、ブロックチェーン関連の特許取得数において中国は世界のトップを走る。果たして集権型と分散型のいずれを目指すのだろうか。

 中国の研究者が好んで引用するのが、三国志演義序文の一節である。それは、「およそ天下は分かれて久しければ合し、合して久しければ分かれる」という理を著す。大きな変革が起ころうとするときには、中央に集まろうとするエネルギーと、外側に分散しようとするエネルギーが同時に生じる。それらを巧みに操った者こそが天下の覇者となる機会を得る。

 おそらく通貨の覇権にも、この理があてはまる。国内の通貨体制を中央集権型で統治しながら、国際通貨としての拡張性にはブロックチェーンも活用する。一見すると相矛盾するように見える二つの手綱を操りながら、国内経済と国際社会の両方を視野に入れて戦略を練る。その意味では、中国の策は巧みであり、老練さを備えている。

  
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