今回のパイロットテストには、中国銀行、中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行という四つの主要銀行が参加するほか、チャイナモバイル、チャイナテレコム、チャイナユニコムの携帯キャリア3社も協力する。
中国ではデジタル人民元のことをDC/EPと呼ぶ。これは、DC(デジタル通貨)とEP(電子ペイメント)の合成語である。国内ではすでに、アリババグループの支付宝(アリペイ)や騰訊控股(テンセント)の微信支付(ウィーチャットペイ)が普及しており、現金を利用する場面は消滅しつつある。だが、これらは電子ペイメントを便利にする民間の創意工夫であって、法定のデジタル通貨ではなかった。
今回、満を持して登場するのは、本命となるデジタル通貨である。人民元の紙幣がデジタルに置き換えられ、モバイル端末に搭載される。お財布アプリ「銭包」に入っている長方形の画像は、紙幣を模した何かではなく、本物のお金である。ただ一つ、紙幣との違いは、券面額を自由に変えられるデジタルのお金であることだ。これを支えるのが金融と通信のインフラ企業であり、統制された国家プロジェクトとして開発が進められる。
その強みは「どんな場面でも利用できること」
古来より、お金は天下の回り物である。人から人へと移転してこそ意味がある。この性質のことを、転々流通性という。それは通貨を構成する要素の一つであり、どんな状況でも転々流通性が確保されていなければお金とはいえない。
デジタル人民元は紙幣に置き換わる新しい現金であるから、たとえ携帯が圏外であっても使えなくてはいけない。デジタル人民元のアプリとされる画像には、スマホとスマホを近づけるような絵柄のコマンドがある。それは、NFCと呼ばれる近距離通信技術に対応していることを示
デジタルの金銭的価値というのは、端末間のローカル通信によって移転するように設計することができる。ただし、リスクを抑えるために上限を設定し、圏内に戻ったときに履歴を検証する必要がある。ある程度のリスクとコストを許容して、どんな場面でも利用できることを優先する。それこそが民間のペイメントサービスとデジタル人民元の役割の違いである。
2019年秋、中国政府はブロックチェーン技術の応用可能性について公式に言及した。この構想を支えて、あらゆる分野における開発を支援するのが、BSN(ブロックチェーン・サービス・ネットワーク)という組織である。
BSNに参加するのは、日本でも銀聯カードでおなじみの中国銀聯と、携帯キャリアの中国移動通信グループである。これらの巨大インフラ企業と肩を並べて、北京市朝陽区のサイエンスパークに入居する北京紅棗科技というスタートアップも参加しており、北京大学をはじめとするアカデミックの知識も投入される。