世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年6月3日

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 5月13日、米国土安全保障省及び連邦捜査局(FBI)は、新型コロナウィルスに対するワクチンや治療法の開発研究に関する情報を、中国のハッカーやスパイが、米国の研究機関や製薬企業、医療関連組織等から盗取するために、サイバー攻撃を仕掛けている可能性があると、公式に警告した。

BeeBright/iStock / Getty Images Plus

 これに先駆け、5月10日付のニューヨーク・タイムズ紙では、同紙のデイヴィッド・サンガー記者とニコル・パールロス記者が、この問題に関する解説記事を書いている。それによると、中国のサイバー攻撃は、従来から広範囲に行われていたので、今回のパンデミックに関わる重要な組織を狙うのは驚きではないが、最近では、イランや韓国もサイバー攻撃をしかけているとする。米英両国は共同で、「医療機関、薬品会社、学界、医療研究機関、地方政府が標的にされている」と警告を発した。サイバー・セキュリティ会社ファイアアイの情報分析主任は、「普段は国際公衆衛生機関、病院などを対象とすることを躊躇する各国政府も、知識と情報を強く求めているのでその一線を越えている」と述べている。

 新型コロナウィルス・ワクチンの重要性はいくら強調しても強調しすぎることはない。

 新型コロナウイルスとの戦いで、治療薬レミデシビルが、5月1日、米国食品・医薬品局で承認され、日本でも5月7日に使用が認められたが、これは治療薬で感染後の重症化を防ぐのに有効だが、新型コロナウィルスの感染を予防するにはワクチンが必要である。ワクチンが開発されれば、新型コロナウィルスを封じ込めることができる。今、新型コロナウィルスの影響は長期に及び、「新型コロナウィルスとの共存」を考えるべきであると指摘されているが、ワクチンがあれば、新型コロナウィルスを予防できるから「共存」は考えなくて済む。したがって、各国がワクチンの開発にしのぎを削っているのは当然である。特に中国は新型コロナウィルスの発生源であり、その汚名をそそぐべく、いち早く新型コロナウィルスを克服したとして、ロックダウン(都市封鎖)の解除や経済活動の再開を宣伝している。もし世界に先駆けてワクチンの開発に成功すれば、これ以上宣伝価値のあるものはない。中国が正統的な研究開発を進めている傍ら、サイバー攻撃でワクチン開発のノウハウを取得しようとするのは中国にとって不自然なことではない。

 このような中国のサイバー攻撃を、米国が非難するのは当然であるが、その上、米中の激しい対立がある。米国は貿易不均衡、知的財産権の不法取得、経済についての国の干渉などをめぐって中国を非難してきたが、ここにきて最近のパンデミックが新しい対立の種になっている。トランプ政権はパンデミックに対する対応の遅れに対する批判をかわす意味もあり、パンデミックの発生源は中国であるのに中国政府はそれを隠蔽し、そのため感染が世界中に広まったとして中国を非難し、これに対し中国は事実に反するとして強く反論している。

 現在、新型コロナウイルス用ワクチンの開発をめぐって世界でし烈な競争が行われているが、ボストンのバイオ製薬会社モデルナ社とオックスフォード大学ジェンナー研究所が先陣を切っていると言われる。モデルナ社は、2021年中に承認を得たいと述べており、オックスフォード大学はワクチンを「数か月」で完成させると述べているとのことである。新型コロナウィルスは、第二波、第三波があるとも言われており、ワクチンの一日も早い開発と実用化は世界が強く望むものであるが、その間にあって、上記解説記事の言うようなワクチン開発をめぐるサイバー攻撃があるのは、避けがたい現実である。

 日本でも、研究機関や企業等でワクチンや治療薬の開発がなされていると思うが、日本の技術、知的財産を守る意味でも、サイバー・セキュリティの強化やより徹底した情報管理が求められよう。

  
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