プログラムの内容は、入社前の内定者が対象で研修期間は1年間。つまり、卒業後の1年間は社員としてではなく内定者の身分で海外生活を送ることになる。当然、入社は1年遅れ、内定期間に給料は支給されない。会社は渡航費、滞在費、その他認められた費用は全額負担する。海外で何をやるのかは自分で見つけ、プランは会社の承認を得る仕組み。親からの仕送り、連絡はしないルール、集団ではなく個人で行動する。
学び方、方法、場所もすべて自由
「入社時に語学力が不足していることは問題ではありませんが、学ぶ力がないのは困ります。1年かけて自己満足でいいので、一つのことをやり遂げてくる。これが自立心を養い、異文化を理解し、生きた語学力を自分のものにしてきます」と望月さんは、内定者を海外に派遣する狙いを強調する。座学で理解する語学力だけでは企業で生かせないからだ。これまで派遣した内定者のTOEIC平均点は400点程度。帰国後は570点にまでUPしているという。
さらに日本的な発想が通用しない文化に触れてくることは、必ず将来に役立つ。感じることは人それぞれだが、何をやるのか企画が立てることは必須で、簡単にできるプランでは会社がOKを出さない。ときには挫折感を味わいながら、やり遂げてくることで、日本人に欠けている国際感覚を自然に受け入れてくる。インドでヨガのインストラクター資格を取る、アフリカでボランティア活動に参加する、やりたいことは何でも構わない。海外武者修行は自分流でいい。
このような海外研修プログラムは強制ではない。同期の内定者でも研修に参加すれば1年後輩になってしまう。生涯年収も単純計算では減る。海外研修プログラムに参加するマイナス面を告知して、それでも行きたいという希望者のみを募る。例年、内定者の40%程度が参加しているという。帰国後に気が変わり内定辞退する人も過去にいた。「それでも日本の国際化に貢献してくれればいい、というのがトップの考え方。もちろん費用の返還なども求めません」と望月さん。懐の深さ、急いで人を育てない考え方が、矢崎流のグローバル人材育成法と思える。
プログラムが始まって20年で、現状のスタイルが定着して、もうすぐ10年。いよいよ参加者たちが会社の中枢になりつつある。人は強制されて育たない。自ら学び、自ら思考しないと自ら行動はしない。それを自然に教えていくのが矢崎総業の「アドベンチャー・スクール」といえよう。この考え方は、多くのグローバル企業の人材育成に影響を与えている。