2024年11月22日(金)

中東を読み解く

2020年7月5日

メンツを保つための小規模併合か

 だが、ネタニヤフ首相にとっては意表を突かれた反発もある。それは他でもない入植者の反対だ。これが第5の理由だ。入植者の大半は当初、米国の和平提案と首相の併合方針に諸手を挙げて賛成した。しかし、提案が入植地の併合と引き換えに、パレスチナ国家を樹立するという「2国家共存」を盛り込んでいることに拒否感が広がった。

 入植者らの懸念は、米国の提案ではこれ以上の入植地の拡大はできないこと、パレスチナ国家が樹立された場合、入植地はその中で孤立し、いわば「パレスチナ人の海」に取り残されてしまうことだ。首相は入植者らを説得しているが、辛うじて入植者の約半数の賛同を得られただけだとされる。だが、公約が入植者の反対で実現できなければ、首相のメンツは丸つぶれとなる。

 このため現在首相周辺で浮上しているのが「公約通り併合はするが、米国やヨルダン、ガンツ氏を刺激しないよう、併合対象をエルサレム周辺の入植地だけにとどめ、これを併合第一弾として公表する」案だ。首相は公約を実施したとしてメンツを保ち、今後順次併合していくという姿勢を見せて、八方ふさがりの状況を乗り切るという思惑だ。

 しかし、首相に対しては基本的に併合に賛同するイスラエルの保守派からも「なぜ寝た子を起こすのか」(米紙)と批判が噴出している。西岸をイスラエルが実質的に支配する現状は同国にとって悪いものではない。西岸の治安はパレスチナ側の取り締まりによって安定しており、和平交渉がストップしていてもパレスチナ人の抵抗は小さい。しかも国際社会はイスラエル支配を黙認し、アラブ諸国との関係改善も徐々に進んでいるからだ。

 「イスラエルにとって現状は最も望ましい状態ではないか。パレスチナ独立国家樹立が絶望的になる一方で、パレスチナ側からの反発も暴力的なものではなく、国際的にも和平の推進について圧力がない。なぜ、併合という形式にこだわり、“平時に乱を起こす”ようなことをあえてやるのか。ネタニヤフには戦略がない」(ベイルート筋)。ネタニヤフ首相の決断はイスラエルに大きな危機をもたらすかもしれない。

  
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