インド経済を読む

2020年7月22日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

インドにおける「中華アプリ」の存在感

 では実際この「中華アプリ禁止措置」はどれくらいのインパクトを持っているのだろうか。調査会社CounterpointのアナリストであるTarun Pathak氏は、今回の中華アプリ禁止措置はインドのスマートフォンユーザーの3人に1人に影響を与えるだろうと述べている。

 TikTokはインドにおいて実に1億人以上のアクティブユーザーを抱えている。音楽や動画が大好きなインドの若年層を中心に最も有名な中華アプリの一つと言える。またファイル共有ツール「SHAREIt」のユーザー数は一説によると4億人。これにはアクティブでない登録のみのアカウントも相当数含まれていると考えられるが、それにしてもこれらは日本の感覚から考えるとケタ違いの人数だ。

 もちろんインドはそもそも人口が多いという理由もあるが、それに加えて平均年齢が26歳程度と非常に若いためIT関連サービスに対する対応も早く、新しいアプリが登場するとそれが市場に浸透するスピードが日本よりも早い。その結果それぞれのユーザーも驚くべきスピードで増えるのだ。

 では具体的にはどんな影響が出るのか。

 TikTokなどのアプリは「娯楽」の意味合いが強いので影響は限定的だろう。しかしビジネスに関わるアプリの場合その影響は無視できない。

 インドと中国の経済の結びつきは現在非常に強く、両国のビジネスマンの間のやり取りも非常に活発だ。そのやり取りによく使われているのが実は中華アプリWechatであったりする。このWechat、中国語が苦手なインド人がメッセージを送っても、受け取る中国人側は中国語で受け取ることができる機能があったため、印中間の特に中小企業のビジネスにおいて非常に重宝されていた。

 しかし、6月29日よりのこの禁止措置で、急にこのWechatが使用できなくなったため、慣れないGoogle翻訳などで業務を遂行することになったインドの中小企業は四苦八苦しているらしい。中には匿名を条件に「従来通りのやり取りを続けるために中国からWechatをすでにダウンロード済のスマホを輸入する」とインタビューに答えている人もいるくらいだ。

 次に雇用。

 当然これらのアプリを提供している会社はインド国内に支店や子会社を持っているケースが多い。それらは莫大な雇用を生んでいるのだが、このような「中華アプリ禁止措置」が続くと彼らがその雇用を減らさざるを得ない状況になるだろう。

 実際、このような企業の就職することを目指して中国語を勉強していたインド人も多く、インドの首都デリーの町には「Learn Chinese and Make Big Money」と書かれた中国語学校の広告を見ることも多い。そうやって「中国ビジネス関連で良い仕事に就こうと思っていたインド人の多数の若者」への影響は計り知れない。

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