2024年12月24日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年7月31日

 最近、衛星写真により、北朝鮮の平壌近郊の元魯里で、核弾頭製造に使用されている可能性のある施設の存在が明らかになった。CNNは、プラネット・ラボが取得した映像とミドルベリー国際問題研究所による分析によって平壌近郊に稼働中の新たな施設が明らかになったと報道した。同研究所のジェフリー・ルイスはCNNに「活動は米朝交渉中も今も弱まっていない。今も核兵器を作っている」と述べている。別の専門家アンキット・パンダは、施設は主として弾頭製造に関与しており、有事対応改善のための弾頭分散配置の場所にもなっているのかもしれないと近々出版される著書の中で述べている。韓国軍当局はこの施設が核開発と直接関連している可能性は低いとしているようだ。この他にもこれまで幾つかの秘密の施設が疑われてきている(平安北道の泰川、博川、亀城の地下ウラン濃縮施設等)。

daboost / iStock / Getty Images Plus

 韓国の英字紙Korea Heraldは7月14日付けの社説‘Detected facility suspected of making nuclear warheads point to Pyongyang’s recalcitrance’で、「今はトランプと金正恩の間の疑わしき合意を促進する時ではなく、北の完全な非核化のための具体的なロード・マップ作成に固執するべき時だ」と主張している。その通りである。6月上旬の北の対南緊張エスカレーションが開城の南北連絡事務所の爆破でひとまず終わったにも拘わらず、文在寅政権は、対北政策を再検討するどころか、従来の宥和路線を強め、米朝首脳会談の再仲介の姿勢を強めている。全く不可解である。そもそも、今や米朝交渉は仲介者を必要としないし、米朝が直接やることこそが重要だ。

 金与正(朝鮮労働党第1副部長)は7月10日、「朝米(米朝)首脳会談のようなことは今年中には起きないと思う」とする談話を出した。この声明が北の正直な考えではないか。北がしていることは、むしろ次の4年に向けた戦略作りであり、自己のカードの拡大、強化であろう。

 7月3日、文在寅は、6月の南北緊張に係る批判を受けて、青瓦台などの外交安保ラインの大幅交代を決めた。安保室長に徐薫(前国情院長)、国情院長に朴智元(前国会議員、金大中訪朝とそれに関連する違法な対北送金にも関与した金大中側近)、統一部長官に李仁栄(国会議員、元学生運動リーダー)、安保特別補佐官に前室長の鄭義溶と前秘書室長の任鐘ソクを指名した。殆どが学生運動などを通じる筋金入りの北朝鮮通ばかりであり、米国通の欠如が批判されている。

 文在寅政権は、最近は北の「非核化」という言葉も言わない。6月25日朝鮮戦争勃発記念日の演説でもそうだった。南北宥和と「南北関係韓国運転手席」論が第一で、全てのようだ。その最大の問題は、北朝鮮問題を南北と米韓だけで処理したいし、できると誤解していることである。それは対外発言の端々に明らかである。今や北の核開発は最重要の地域かつ世界問題であり、もはや南北問題を超える問題となっていることを韓国は理解すべきだ。

 7月7~9日の日程で、米国のビーガン国務副長官(兼対北朝鮮代表)が訪韓した。恐らく米国の意図は二つ、第一に新たな外交安保ラインに会い、見定めること、第二は南北関係については米韓が緊密に連絡していく、換言すれば米国の合意なしには動かせないことを念押しすることにあったのではないかと思われる。ビーガンは韓国が独走しないように釘を刺したのであろう。最近、韓国の政府・与党からは「いちいち米国の了承を取らないで南北の前進を図るべきだ」との勇ましい発言が出ていたし、またそれを受けて北も米韓調整の場である米韓作業部会に不満を示していた。

 11月までにもう一度米朝首脳会談を仲介しようとの韓国の考えは危険である。韓国としては寧辺プラス・アルファの廃棄と制裁の部分撤回の「スモール合意」を再度目指したいのだろう。制裁は効いており、大事な手段だ。トランプは米朝首脳会談への関心を装っているが、選挙前にこれほど重要で議論のありうる外交をすることは適切ではない。

  
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