2024年4月25日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年7月30日

99回説得しても聞く耳を持たぬなら、100回目には打ちのめせ

 林語堂は『中国=文化と思想』(講談社学術文庫 1999年)において、「共産主義政権が支配するような大激変」を大胆にも予想する。だが、「社会的、没個性、厳格といった外観を持つ共産主義が古い伝統を打ち砕くというよりは、むしろ個性、寛容、中庸、常識といった古い伝統が共産主義を粉砕し、その内実を骨抜きにし共産主義と見分けのつかぬほどまでに変質させてしまうことであろう」と、共産党政権が伝統に絡め取られてしまうと断言することも忘れなかった。

 すでに林語堂の斷言から90年近く、パーシー・クラドックの述懐から四半世紀余が過ぎている。この間、世界は中国を見誤り続けたのだ。たとえば開放後に西側社会が重ねたテコ入れによって経済が豊かになりはしたが、民主化するはずもなかった。

 いま世界が目の前にしているのは「急速な経済成長を続けながらも相変わらず粗削りで独断的な政治政策を行っている国」であり、「ただ民族主義だけを鼓吹する国に変わ」りつつある中国なのだ。その中国を率いるのが習近平国家主席を頂点とする紅衛兵、紅小兵世代であることを、やはり深刻に受け止めておくべきではないか。

 たしか毛沢東は「99回説得しても聞く耳を持たぬなら、100回目には打ちのめせ」と教えていた。ならば、これからの中国に対するに、我われの側からする毛沢東式の「100回目」も覚悟しておく必要があるだろう。

 第2次世界大戦期のアメリカ軍において中国通の最右翼として知られたJ・スティルウェル将軍は、中国戦線米軍司令官兼蔣介石付参謀とし対日戦争を指揮している。彼は蔣介石とはソリが合わなかった反面、共産党に期待を寄せていた。同將軍の生涯を軸に第2次大戦前後のアメリカの中国政策を綴った『失敗したアメリカの中国政策 ――ビルマ戦線のスティルウェル将軍』(朝日新聞社 1996年)を著したB・タックマンは、死を前にした同将軍の呟きを、こう綴っている。

 「きみわからんのかね、中国人が重んじるのは力だけだということが」

  
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