2024年4月20日(土)

WEDGE REPORT

2020年7月29日

海鳥への影響を軽減するために必要なアボイドマップ

 洋上風力の導入先進国である英国においては、海鳥への影響に対する懸念が、洋上風力の建設に関わる許認可取消や訴訟問題にまで発展している。たとえば英国のDocking shoal洋上風力は、当初王室から貸与された場所に建設が計画されたものの、建設前の環境アセスメントにおいて周辺に生息する希少種のサンドウィッチアジサシの個体数減少への影響が大きいことが判明し、最終的には電力法による建設許認可が取消となった。事業者は、環境アセスメントに総額1000万ポンドの資金を投じていたとされ、許認可取消によって多大な損失を被ったこととなる。また、スコットランド沖のForth and Tayウィンドファームでは、計画された場所がシロカツオドリの繁殖地となっている海域であり、周辺の特別保護区域への影響が懸念された。それを受け鳥類保護団体がスコットランド大臣に対して許認可申請の取消を求める訴訟を起こしている。

 英国では2000年初頭から「ラウンド1~4」の4段階に分けて洋上風力導入が進められている。初期の「ラウンド2」までは軽視されていた海鳥への影響についての考慮が、上記の訴訟や賠償の問題を受け、ラウンド3以降では海鳥の分布密度が考慮されるなど、慎重に行われるようになった。

 海鳥への影響を最小とする建設地選定のためには、詳細な海鳥の分布調査を行い、海鳥の利用頻度の少ない海域を抽出することが必要である。それにはアボイドマップの活用が有効である。アボイドマップマップは「センシティビティマップ」または「リスクマップ」とも呼ばれる。英国においては、排他的経済水域とスコットランド領海の一部において54種もの海鳥を対象とした広域のアボイドマップが作成された(Bradbury et al. 2014)。マップ作成のために、まず種ごとの行動の特徴(飛翔高度や着水の頻度など)、生息個体数、あるいは絶滅危惧レベルをもとに、バードストライクや餌場の喪失など洋上風力による影響の受けやすさをSSI(洋上風力に対する海鳥のリスク感受性指標、Species-specific Sensitivity Indexの略称)として指標化した。次に、過去33年間もの間実施された船舶や航空機による海鳥の洋上分布調査の結果をもとに、SSIの高い種、すなわち洋上風力の影響をとくに被りやすい種が多く集まる海域を4km四方の精度で抽出した。英国では、建設地選定の初期段階においてマップを活用して海鳥への影響を考慮することにより、その後実施される環境アセスメントが効率化・簡略化できるだけでなく、予期せぬ影響の露呈、およびそれによる計画中止や設置規模の縮小などの計画の見直しを事前に防ぐことができるようになった。なお、このようなアボイドマップはドイツにおいても作成されている(Garthe and Hüpop 2004)。

日本では有効活用されないアボイドマップ

 生物の生産性が高い日本の近海には、世界の海鳥の5分の1以上にあたる70種あまりが生息しており、そのうち35種ほどが繁殖している。沿岸部や島嶼には大小500以上の海鳥繁殖地が点在する。しかし、冒頭で述べたように日本においては、促進区域の検討段階で海鳥への影響は十分に考慮されていない。

ウミネコの背中に装着された小型のGPSロガー。鳥の飛翔経路や高度が詳細にわかる。北海道の許可を受けて捕獲・装着している(KENTARO KAZAMA)

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