近年、わが国の主要企業や米アップル、グーグルなどのグローバル企業は、自社のCO2排出削減の取り組みを積極的に開示している。そうした環境経営の機運が世界的に高まる中、日本では今年4月から「非化石価値取引市場」が創設され、太陽光発電や原子力発電などCO2ゼロの「環境価値」の取引が始まる。しかし、国際的に通用する環境価値の算定基準とは乖離しており、企業からみると新市場に対する魅力が欠ける。再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の国民負担軽減もできる仕組みであるため、取引が活発になる制度設計に速やかに着手するべきだ。
40兆円以上に達するFIT賦課金の軽減策
非化石価値とは、これまで電力市場で電力量(kWh)として一体的に取引されてきた、太陽光発電や水力発電などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)や、原子力発電といった非化石電源がもつCO2ゼロ等の環境価値を、明示的に評価するものである。同市場を導入する目的は、①エネルギー供給構造高度化法(以下「高度化法」)に基づき小売電気事業者に求められている非化石電源比率(2030年に販売する電力の44%以上)の達成手段を提供し、②非化石電源の環境価値を需要家に訴求することで、FITの賦課金負担の軽減を図ることにある。
FITが12年7月から実施されて約5年。電気料金に加算されるFIT賦課金は既に年間1兆8000億円(16年度)に達している。国が長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)で示したとおり「30年再エネ比率22~24%」となる場合、賦課金の支払いは年間3兆円以上となる。そもそもFITとは、再エネを20年間等の長期にわたって優遇価格で買い取る制度であるため、賦課金額は減りにくく、30年までの賦課金総額は40兆円以上になることは不可避な状況にある。
そこで、賦課金軽減策の一つとして、埋もれていた非化石価値を電力量から切り出して取引する市場が導入される。しかし、3月9日現在の制度設計案では、非化石価値に十分な需要が生ずるのか、次の2点から疑問である。