2024年2月27日(火)

WEDGE REPORT

2020年7月29日

 こうした現状を問題視し、生態系影響を考慮した上で現実的な洋上風力の導入ポテンシャルを見積もる目的から、筆者らは海鳥繁殖地が集中する北海道をケースに海外と同様の洋上風力建設アボイドマップを作成した(尾羽ら 2020: https://criepi.denken.or.jp/jp/serc/source/Y19506.html)。作成の手順は海外と同様であるが、日本には海外のような長年蓄積された海鳥の洋上分布データが存在しない。そのため、筆者らのマップでは、はじめに211の繁殖地を対象に、先行研究で明かされた各種の行動範囲をもとに、海鳥が繁殖地を基点に行動範囲内に一様に分布すると仮定した上で、海鳥の理論上の洋上分布密度の推定を行った。次に、海外と同様のSSIを先に推定された洋上分布密度に重ねることで海域ごとのリスクを数値化した。リスク数値は海鳥への影響に対する懸念「大」「中」「小」の3段階に分類した。

利尻島(星印)で繁殖するウミネコのGPSに記録された飛行経路(実線)と採餌場所(白点)。12個体分のデータ。実線の色は各個体を示す
(KENTARO KAZAMA)

 その結果、再エネ海域利用法の各種要件を満たし、「促進区域」の指定を受ける対象海域のうち、着床式風車の設置に適した水深60m未満の海域(1万832km2)の約7割、浮体式風車の設置が想定される水深60m以深200m未満の海域の約4割の海域で、海鳥への影響懸念が「大」もしくは「中」と評価された。北海道で懸念「大」と評価された海域は、北海道北部と東部に多く見られた。これらの地域においては希少性が高い種(ウミスズメ科やウ科)と、風車の高さ付近を飛行し、衝突リスクが高いとされる種(カモメ科)の両方が分布している。同海域では、風況条件が良い上に水深が浅いため、洋上風力にも適した自然条件となっている。

 同様のアボイドマップは、筆者らと同時期に環境省からも公開されている(環境省報道発表資料:http://www.env.go.jp/press/107900.html)。このマップでは、筆者らと同様の理論上のデータに加え、全国十数カ所で実施された船舶や航空機による海鳥の現地調査のデータが加えられている。「センシティビティマップ」の名で公開されているこのマップは、同省の環境アセスメントデータベースに採録・公開されている。

 これらのマップを活用することで、洋上風力に対する脆弱性が高い海鳥が出現しやすい海域を事前に知ることができ、建設後に顕在化しうる海域ごとに異なるリスクの大きさを相対的に評価することができる。英国同様に、マップを活用すれば、洋上風力の政策的な導入促進地選定の初期段階で生態系影響が相対的に少ない海域を抽出することができる。さらに、海域ごとのSSIを精査することで、たとえば衝突リスクが高いカモメ類や保全ランクの高いウミガラスの相対的な出現確率を事前に把握できる。これにより、環境アセスメントにおいて影響評価対象種の絞り込みなど現地調査の効率化・簡略化にも寄与できるだけでなく、運用後に顕在化する影響を具体的に想定できるため、順応的な運用による影響軽減策(詳細次節)も構築しやすくなる。

 しかしながら、日本において、現状ではこれらのマップは何ら考慮されることなく政府による「促進区域」の選定が進められている(経済産業省ニュースリリース:https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200703001/20200703001.html)。また、先に述べたように環境省作成のマップは同省のデータベースにおいて公開されているものの、法的な効力はなく、環境アセスメントにおいても参考資料の一つとして扱われるに過ぎず、実効的な貢献は無いに等しい。今後、アボイドマップが政策に活用され、また環境アセスメントにおいても有効に活用されるための制度の整備が必要である。


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