2024年2月27日(火)

WEDGE REPORT

2020年7月29日

生態系影響の事前予測の不確実性と影響軽減策

 アボイドマップを活用することで、海鳥への影響に配慮した洋上風力の導入が可能となるが、その解釈には注意も必要である。一般に、洋上風力の有無にかかわらず海洋環境や餌資源量は迅速かつ大幅に変動する。海鳥はこうした変動に対して、分布、採餌行動、あるいは繁殖活動を柔軟に調節する。こうした海鳥の可塑的応答により、海鳥の洋上分布範囲は地域や季節(年)により変動しやすいため、洋上風力の事前の頑健なリスク推定は困難であるとする指摘がある(Green et al. 2016)。また、繁殖を終えた海鳥の多くは、越冬のため秋から冬にかけて餌の豊富な別の海域へ移動する。一般にそうした移動は数百kmから時に数万kmにもおよび、季節によって海域ごとの海鳥の分布は様変わりする。主に繁殖期を対象として理論的にリスク推定がなされている国内のマップにおいては、繁殖期以外の海鳥へのリスク評価は十分でない。環境省のマップでは、繁殖期の理論的なリスク推定に加え、繁殖期以外にも航空機などによる分布調査が実施されているものの、その頻度や対象地域はきわめて限定的であり、繁殖期以外のリスク評価は不十分と言える。そのため、国内のマップでは、海鳥の洋上分布の季節や年変動により、エリアによってはリスクの過大・過小評価が生じうることに注意が必要である。

 このように、現時点では洋上風力の海鳥への影響予測の不確実性は高い。そもそも、海洋産業の中でも比較的新しい洋上風力が海鳥などの海洋生物に及ぼす影響については海外においてもいまだ不明な点が多い(風間 2012)。

 そこで、洋上風力の運用に際しては、影響予測の不確実性や未知の影響に対応した順応的な運用が不可欠である。順応的な運用とは、建設前だけでなく運用後にも継続的なモニタリングを行い、その結果に合わせて運用方法を柔軟に変えることである。このような運用方法により、不確実性により事前の予測を超える影響や事前に想定していなかった影響が顕在化した場合でもただちに対処できるようになる。

 洋上風力に比べて導入が進んでいる陸上風力においては、効果的な順応的運用手法が確立されている(De Lucas et al. 2012)。スペインのTarifa陸上風力では、建設後にシロエリハゲワシのバードストライクが予期せぬ頻度で頻発した。このリスクを軽減するために、建設後の継続的なモニタリングが実施された。その結果を受けてハゲワシの飛来が増加する時期に風車が一時的に稼働停止された。こうした順応的運用により、風車の稼働停止による電力生産の低下をわずか0.07%に抑えながらもハゲワシの衝突を50%も削減することに成功している。

 洋上風力においてはいまだ効果的な順応的運用手法は確立されていないものの、欧州の54の洋上風力では、バードストライクの頻度が増大すると予想される海鳥の繁殖時期や渡り時期、あるいは夜間や悪天候時に、およそ5分の1の施設で風車の稼働を一時的に停止するなど、柔軟な保全措置がとられている(Vaissiere et al. 2014)。これら柔軟な措置に加え、予想外の影響に対応するためには、場合によっては施設の部分的な移設等も含めた大胆な順応的運用を視野に入れておく必要があるかもしれない。


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