故意にガンツ氏との対立を工作
首相が初動でウイルスの封じ込めに成功したのは、同国が900万人という小国であることから、国境管理や外出禁止など強力な施策を浸透させることが比較的容易だったことが挙げられる。しかし、感染封じ込めを確信した首相はウイルスの全般状況を監視する「対策統括官」を任命せず、軍に大きな役割を担わせることを求めた意見に耳を貸そうとしなかった。
首相は第2波のコロナ対応につまずく一方で、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区の併合や私邸改築費用を国庫に負担させようとした問題に精力を注ぎ、感染拡大阻止に手間取った。併合問題は国民の関心が薄いにもかかわらず、歴史的機会を失いたくないとして首相がこだわったが、後ろ盾のトランプ米政権から青信号が出ず、実現には至っていない。
地元メディアによると、感染拡大に収まる気配がない中で、首相の懸念は高まった。というのも、来年1月には起訴された3件の汚職容疑に関する裁判が始まることが決まり、首相の求心力がさらに弱まりかねないからだ。すでに与党リクード内部からも首相批判が出始めており、首相が提案した法案がリクード主導の議会委員会で覆される事態も起きている。
ネタニヤフ首相は苦境から抜け出す“ウルトラC”として、8月末が期限となっている20年度予算案をあえてまとめず、議会に提出できないことを理由に総選挙に踏み切る計画を決めているという。汚職裁判に先立って、「刑事被告人は首相職にとどまることができない」という訴えが高等裁判所に出される見通しで、裁判所がこれを認めるようなことになれば、首相は政権の座から退かなければならなくなる。この点も勘案し、総選挙を実施する考えに傾斜しているとされる。
予算については、首相が1年を対象にするとしているのに対し、次の首相になるガンツ氏が首相輪番制の期間を考慮して2年を対象にするよう主張、対立が続いている。ネタニヤフ首相はこの対立を利用し、連立政権内で予算案をまとめることができなかったという状況を作り、総選挙に打って出るというシナリオのようだ。
イスラエル紙ハーレツは首相に近い関係者の話として「11月18日に総選挙を実施する計画」と報じている。連立政権が発足し、首相輪番制が公表された際、「海千山千のネタニヤフ首相がガンツ氏に首相の座を明け渡すことはない」というのが大方の見方だった。そうした見方が正しかったことが今夏に証明される公算が強い。
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