「旅行法」大統領の訪台も可能に
米国の「台湾旅行法」はこうした時代のうねりを背景に生まれた。
2018年3月に制定された同法は、米国と台湾の高官交流が不十分であることを解消するため、「あらゆるレベルの米国当局者」の台湾訪問、先方高官の米国訪問を認めるーという内容。「あらゆるレベル」というからには大統領でも訪台が可能ということになる。
18年8月、蔡英文現総統がパラグアイなど歴訪の途中、ロサンゼルスに立ち寄り、華僑関係の機関を訪問、1200人が出席した華僑団体のレセプションに出席したのは、この法律が初めて適用されたケースだった。
米国からはアザー厚生長官が、閣僚としては6年ぶりに訪台すると2020年8月4日に発表された。
非難封じの秘策は「議員立法」
東日本大震災被災地に、世界最多の250億円もの義援金を寄せてくれた台湾、自身も大の親日家である、その総統の葬儀に、しかるべき政府関係者を派遣できないというのは、日本政府も本心ではつらいものがあるだろう。「日本版旅行法」制定は総理大臣の台湾訪問をも可能にし、そうした苦悩から解放してくれる。
しかし、日本にはやや複雑な事情があるのも否定できない。
議院内閣制を採るわが国の場合、議員が閣僚ポストに就くなど、国会と政府の関係が近い。法律制定もほとんど政府提出(閣法)による。中国の顔色をうかがう日本政府が、そんな法律を制定するとはとうてい思えない。
そうなると、ほかの方法に頼るしかない。議員立法である。超党派の議員が提案、賛成して制定された法律であれば、政府も「議会が決めたことだ」と非難をかわすことができよう。
米国の「旅行法」が制定された際も中国は反発、「台湾独立をめざす勢力に間違ったシグナルを発した」(外務省報道局長)などと非難したが、それ以上強い措置に出ることはなかった。大統領制の米国では、行政府と議会が分離、議会の力が強いことを知っているからだろう。
もっとも、日本に対して中国が言いがかりをつけてきた場合でも、そもそも議会のせいにするのではなく、政府が中国の顔色をうかがうことをせず、堂々と法案を提出をする勇気を持てば済む話だが。