Wedge REPORT

2020年8月31日

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「第2の水泳人生」

 池江に比較的近い日本水泳連盟の関係者にも取材をかけてみると「池江さんを〝煽る〟ことは好ましいとは言えません。とにかく彼女自身は目指すべき最大の目標をパリ五輪と設定し、ここまで白血病という難敵と戦いながら不屈の精神力で乗り越えて来ました。その過酷さは本人にしか分かりません。サポートしているコーチの方や周りの支援者の方々とも相談し、ベストの筋道を立てているのです。

 そういうところに『東京五輪出場』という世論のムードが高まり、さも既定路線であるかのように外堀を埋められれば池江さん本人やサポートする周囲の面々も尻を叩かれることに繋がってしまい、今のペースを大きく狂わされてしまうかもしれません。だからこそ、ここから先はあくまでも〝外野〟の立場の我々が何も憶測を立てず、彼女の考えを尊重しつつ奇跡の復活劇を静かに見守っていくべきでしょう。それが一番求められるべき言動だと考えています。彼女が退院後、初めてテレビに出演した時に『生きていることが奇跡』と口にし、涙したことを思い出してください」との答えが返ってきた。

 個人的にはまったくの同感である。ただ、正直に言えば内心では、池江ならばもしかしたら東京五輪に出場できるのではないかという思いがあるのも事実だ。高校2年時、2017年4月の第93回日本選手権で50m、100m、200m自由形、50m、100mバタフライの5種目にエントリーし、すべて優勝を果たして女子史上初となる5冠を達成。この歴史的快挙を成し遂げた当時、取材現場の会場で初めて池江の〝しなやかで力強く優雅な泳ぎ〟を目の当たりにし、衝撃を受けたことを昨日の出来事のように鮮明に記憶している。

 そんなポテンシャルを持つ天才スイマー・池江なら今回の復帰戦で足掛かりとした自由形に絞れば、東京五輪代表の座も夢ではないような気も――。いやいや、その言葉は前出の日本水連関係者が警鐘を鳴らしたように我々メディアもまた、やはり飲み込むべきだろう。

 世界中を驚かせた復帰戦を終え、池江はこう言った。

 「またこの場所で泳げたということに、自分のことだけど感動した。戻って来られたんだなと実感した。大きく言えば、第2の水泳人生の始まりかなと。まずは(10月の)インカレ。一番の目標は2024年パリ五輪に出場することなので、パリに向けて徐々に体を戻していければいい」 

 とにかく周囲に惑わされることなく、自分のペースで「第2の水泳人生」を歩んでほしい。

  
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