大きな波紋が広がっている。総合格闘技団体の「パンクラス」が23日、出場予定選手から新型コロナウイルスの抗体検査で陽性反応が出たことにより、東京・新木場のスタジオコーストで開催予定だったイベント「パンクラス317」を開場10分前に急遽中止した。
この日組まれていたタイムスケジュールはロビー開場14時、客席開場14時15分、試合開始14時45分。主催者側は来場者の健康と安全を最優先に考え、苦渋の決断ながらも即座の中止を決めたようだ。
公式ツイッター上でパンクラスの酒井正和代表は次のように報告している。
「この度パンクラスは、本日スタジオコーストで開催予定の『PANCRASE317』の中止を決定いたしました。パンクラスでは7日前に抗体検査、大会当日に抗体検査、抗原検査と3段階の感染検査を実施しております。今回3段階目の抗体検査で当日試合予定の選手より陽性反応が出たため、急きょ中止を決定しました。中止に関して、開場10分前という直前に判明した事態でしたが、ご来場者の皆様の健康と安全を最優先に考えて即刻中止を判断いたしました。今後の詳細については、改めてニュースリリース等でご案内させていただきます。2020年8月23日パンクラス代表 酒井正和」
この開場10分前に大会中止の判断を下した主催者側に対しては賛否両論あるようだ。批判している人も非常に多い。なぜPCR検査を行わなかったのかと疑問を向ける意見もネット上のコメントでは散見される。
しかし、これには同意できない。パンクラス側の検査体制は酒井代表がツイッターでも説明しているように3段階のチェックを設けており、それなりに入念だ。大会の1週間前に行われた抗体検査では陰性となったものの、当日の検査で陽性反応が出たことで「罹患している可能性も否定できない」とし、イベントそのもの自体も中止の判断を取らざるを得なかった流れは致し方ないと考える。
結果判明まで少なく見積もっても1~6時間(それ以上となるケースが大半)かかるPCR検査と違い、15分から30分程度しか判定時間を要さない抗体検査、抗原検査なら14時開始の試合当日に無理のない範囲でダブルチェックを課すことがスケジューリングと照らし合わせても容易だ。試合開始時間のぎりぎりまで検査を行うことも可能になり、出場選手が「限りなく陰性」であることを証明し、会場内における各々の感染リスク低減や感染拡大防止の両面を念頭に置けば非常に妥当だと考える。
確かにPCR検査を「3段階の感染検査」の枠組みの中に入れ込んでもいいとは思う。そのほうがベターであり、ベストだろう。ただ、パンクラス側は7日前の抗体検査の時点で「IgM抗体(現在罹患しているかもしれない可能性がある=急性感染期を示している可能性)」の陽性反応が出た選手に対してはPCR検査を行って、より詳細に調べ上げる体制を整えているようだ。
プロスポーツの中にもコロナ禍において「選手たちに対し、PCR検査を月に1回程度行って陰性であればOK」というルールを設けているところがいくつかあるが、これだけでは正直に言ってかなり脆弱であり、むしろ穴だらけだ。このパンクラスが設けている「3段階の感染検査」のスケジュールは、それらのプロスポーツと比較しても遥かに見逃しの可能性は低くなるように考えられている。
あたかも「PCR検査で陰性」がすべての免罪符のようになっている世の中、あるいはプロスポーツ界の現状は極めて危険な感も漂う。昨今の高過ぎる〝PCR依存〟の流れに対してもパンクラスの決断は、ある意味で一石を投じた格好と言えるのではないだろうか。
ちなみに世界最大の格闘技団体「UFC」でも5月の大会で試合前日の計量後のPCR検査で出場予定選手の1人がPCR検査で無症状ながらもセコンド陣2人とともに陽性反応を示したことで当日は欠場に追い込まれた。結局、他の参加者が全員陰性反応だったことで主催者側は医療チームや開催場所のフロリダ州側とも話し合いを重ね欠場選手のカードのみを変更し、無観客での強行開催に踏み切っている。このケースを引き合いに出し「パンクラスだって、陽性になった選手を除いて試合を行うべきだった」と意見する声もあるようだが、それも正しい見解とは言い難い。
UFCはダナ・ホワイト代表が資金力にものを言わせ「イベントごとに出場選手や関係者に1200回ぐらいのPCR検査を行っている」と豪語しているほど。しかもダナ・ホワイト代表はドナルド・トランプ大統領ともホットラインがあり、その5月の大会を無観客で強行開催の末に無事成功させた際にも大統領から直接祝福のメッセージまで受けている。つまりは「ワシントン」の後ろ盾まで得ているようなスーパーオーガナイザーなのだ。