WEDGE REPORT

2020年9月14日

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「あってはならないこと」ととらえられているのが世界の共通認識

 第一に今大会が行われている開催地の米国は「BLM」の〝本場〟だ。そういう観点から考えると大坂の抗議行動は日本以上に波紋を呼び起こしそうなものだが、米国内における現状を鑑みれば時代錯誤の超少数極右勢力は論外として、まともな考えを持つ人たちからの批判は皆無に等しく、むしろ称賛の嵐が沸き起こっている。

 ちなみにNBAのロサンゼルス・レイカーズでプレーするスーパースターのレブロン・ジェイムズは「BLM」の賛同者であり、その啓蒙活動も〝堂々〟と行っている。NBA、MLB、NFL、MLSなどの米プロスポーツリーグに所属する選手たちも前記したウィスコンシン州の事件に抗議する意思を示し、先月26日に行われる予定だった各リーグの数試合が開催中止となった。大坂だけが母国の日本で議論の的になり、一部から集中砲火を浴びるのはナンセンス極まりない。

 これだけ「BLM」が一大ムーブメントとなっているのは、黒人の人たちが昨今の米国内において再び台頭しつつあるマイノリティ排斥に危機感を強めていることの表れと評していいだろう。そして白人を含めた米国民の多くは多少の差異はあるにしても「BLM」に全員同調とまではいかないにせよ、少なくとも問題意識としての共有はできている。

 日本から「政治とスポーツが云々」と大坂の抗議行動に対して疑問を投げかけたり、イチャモンをつけたりしている人は、米国内で大きな社会問題として再び持ち上がっている黒人の人種差別問題をどれほど把握できているのだろうか。もちろん、筆者も分かってはいないし、この場で「BLM」に関する是非についての言及は避けたい。しかしながら、ハイチ系米国人の父親と日本人の母親の間に生まれた大坂が自らの置かれた境遇にも共通するマイノリティの黒人への不当な扱いが再燃しつつある米国内の現状を危惧し、世界に訴え続けている行動は個人的に何ら批判されるべきことではないと考える。

 こう主張すると「じゃあ、プロスポーツの試合の場で『戦争反対』という示威行為をしても言いのか」「国際試合に参加した選手が自分の国内で起こっている問題を好きなように訴えてもいいということなのか」などと次々に異論が起こりそうな気もする。このように見境がつかなくなってカオス化することを懸念し、IOCは一色淡に個人的な主義主張は「政治的パフォーマンス」としてスポーツマンシップに反する行為として禁ずる措置をとっているのだろう。

 とはいえ、この「BLM」が「政治的パフォーマンス」という指摘は大きく論点がズレている気がしてならない。かつて南アフリカなどで取り入れられていたアパルトヘイト政策が淘汰され、今や歴史の汚点として語り継がれるように「あってはならないこと」ととらえられているのが世界の共通認識だ。当たり前のことが、当たり前のように受け入れられにくくなっている世の中は何だかおかしいと感じる。それが大坂の母国であり、私たちが日々生活している日本で一部ながらも顕著に沸き起こった現状を見聞きしていると随分と排他的なところが露にされ、切なさと物悲しさを覚える。

 そういう意味においても今大会で大坂が見せ続けた「BLM」の行動によって、あらためてアイデンティティーの大切さを再認識させられた。今大会を戦い抜いて見事2度目の頂点に上り詰めた大坂には心の底からお祝いの言葉と感謝の念を捧げたい。

  
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