2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2020年9月7日

 それでもワンチャンスが残されているという。阪神タイガース・藤浪晋太郎が5日の巨人戦(甲子園)で4回2/3を9安打6四球11失点(自責点7)で降板。11失点は自己ワースト、そして阪神の球団史上でも1人の投手による失点記録としてはワーストとなった。今季はここまで7試合に先発登板し、1勝5敗、防御率5・27。ひいき目に見てもほとんど戦力にはなっておらず、単に足を引っ張っているだけの存在に成り下がっているが、それでも矢野燿大監督は悩める右腕にもう1度先発の機会を与えることを示唆した。

(fcscafeine/gettyimages)

 だが、指揮官もその扱いに内心では困り果てているようだ。何しろマウンドに立ってみなければ、藤浪はどうなるか分からない。今季唯一の白星を飾った先月21日の東京ヤクルトスワローズ戦(神宮)で6回1/3、6安打2四球4失点(自責点2)と「まずまず」の内容を残すような試合があったかと思えば、立ち上がりはそれなりに良くても突然ゲーム中盤ぐらいになると大荒れになることもある。これではベンチも正直、お手上げだろう。

 阪神は開幕当初の救いようもない状況からチーム一丸となって抜け出し、6日現在で2位につけて大きく引き離されてはいるものの首位・巨人の尻尾を何とか追っている。だが、そんな巨人との大事な直接対決で先発を任されながら背信投球で試合をぶち壊したとあれば、チーム内からの信頼はさらにガタ落ちとなるのも必然だ。

 しかもチームは前夜の直接対決第1ラウンドで快勝し、上昇気流に乗りかけようとしていたところだった。それが、ほぼ藤浪の独り相撲によって相手の巨人打線に火を点けた挙句、むざむざと白星を配給してしまったのだ。せっかくいい流れになりかけていたにもかかわらず、水を差してしまったわけである。

 そういう意味でも5日の黒星は本当にもったいなかった。こんな頼りない右腕ではチームの面々だって「今日の先発は晋太郎かよ…」と、一様にやる気が失せてしまうのも想像に難くない。

 厳しい言い方を承知で言わせてもらうが、本気で逆転リーグ優勝を狙いたいのであれば、阪神は藤浪をもう一軍マウンドに立たせないほうがいい。暴れ馬のごとく危なっかしい投球を繰り返し、バクチ的な投球に勝負の行方を委ねるほど今のチームに余裕などないはずである。

 おそらく藤浪は今後、先発機会を与え続けていればどこかのタイミングにおいてはそれなりの投球内容を残して2勝目、あるいは3勝目と白星を積み重ねる可能性もあるだろう。しかしそうかと言って先発ローテをきっちりと守り続け、虎のエースとして「藤浪が投げるのならば大丈夫」と言われるような勝ち星を計算できる投手へと復活させることはもはや非常に厳しいと思われる。〝快投乱麻〟の好投を見せることが万が一あったとしても、そんな目を見張るような投球を持続させていく術は今のままだと残念ながら見出せまい。

 現役時代、多くの名投手とバッテリーを組んでいた矢野監督ならば藤浪の再生が困難な状況であることぐらい、とうに分かっているはずだ。ではなぜ、まだこの期に及んで手を差し伸べるのか。話を総合すると、やはりフロントと親会社の意向も多少は絡んでいるようだ。何だかんだと言われながらも藤浪は注目選手であり、一般層からの人気もまだある。

 今から8年前に4球団の競合の末、抽選で交渉権をつかみドラフト1位入団へとこぎ着けたスタープレーヤーの復活をそう易々と諦めるわけにもいかない。外出自粛令を破って他の選手とともに知人宅でのホームパーティー参加から新型コロナウイルスに罹患してしまったことや、練習に遅刻して二軍降格となるなど前代未聞の愚行を連発させながらも藤浪がこれだけ庇(かば)ってもらえているのは、やはりフロントや親会社の阪神電鉄ならびに阪急阪神ホールディングスの幹部らの強い意向もあると聞く。そういう〝お上からのお達し〟を簡単に無視することができない今の矢野監督の立場を考えると気の毒な感はある。

 今季開幕直前にあたる3カ月ほど前、記事の中でパ・リーグ球団のスカウトが「藤浪のトレード話をもし打診されたらどうするか」との問いに対し、精神力の欠如などを理由に藤浪自身の伸びしろがなくなっていると指摘しながら「NOですね」と答えていたことを執筆した(『阪神・藤浪、遅刻降格のツケは「トレードなし」と「最後通告」』)。

 しかしながらシーズンが開幕し、内容はけして絶賛されるようなレベルではないにしても藤浪が一軍である程度の先発登板回数を重ねたことを受け、パ・リーグ球団のスカウトの中には多少関心を寄せる声も出始めている。周囲を見返すような好投を繰り返しているわけでもないのにこれだけ他球団から注目度を集めてしまうのは、やはり虎の背番号19が実際にマウンドで投げている姿を見ると、それなりの魅力を感じるからなのだろうか。


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