フィリピンとベトナムには強硬姿勢
一方、中国はフィリピンとベトナムには強硬姿勢を維持した。4月にはフィリピン沖のスカボロ礁で不法操業をした中国漁船をフィリピン当局が取り締まったため、中国が艦船を派遣してフィリピンの艦船と2カ月以上にらみ合う事態となった。この間、中国はフィリピンからのバナナの輸入やフィリピンへの渡航を禁止するなど経済的な圧力をかけた。また、6月にベトナムが南沙、西沙諸島を領土とする海洋法を制定すると、中国はベトナムが主張する排他的経済水域内で天然ガス・石油鉱区の探査を国際入札にかけると発表し、南沙、西沙、中沙の3諸島を海南省の「三沙市」に格上げした。
今回のASEAN外相会議では、フィリピンとベトナムが排他的経済水域の尊重などを盛り込むよう求めたが、議長国カンボジアがこれを拒否し、共同声明の発表が見送られる前代未聞の事態に陥った。中国のASEANへの「内政干渉」がこのような事態を招いたのである。そもそも、会議場となったプノンペンの平和宮殿は、中国の政府開発援助(ODA)を受けて建設したものだ。
ASEANは今年末までに「行動規範」について中国と合意することを目指している。だが、ASEAN加盟国は南シナ海問題に関して一枚岩ではない。まず、領有権を主張している加盟国とそうでない国の間で温度差がある。また、紛争当事国の中でも、ベトナムとフィリピンは中国と南シナ海で実際に武力行使を経験しているが、マレーシアとブルネイは直接の対立には至っていない。
貿易総額3600億ドル
中国の経済的影響力
また、中国とASEANの貿易総額は3600億ドルに及び、すべての加盟国が中国の経済的影響の下にある。フィリピンはアキノ大統領の下で対中強硬姿勢を強めているが、アロヨ前大統領派はこれを批判している。また、ASEAN加盟国の中にもフィリピンの突出した対中強硬姿勢を批判する声がある。これらの事実が、ASEANが一体となって南シナ海問題で対抗するのを阻んでいるのである。一連のASEAN関連会議終了後、ASEAN諸国は南シナ海問題に関する6原則で合意したと発表した。これには国際法の尊重や「行動規範」の策定が含まれているが、目新しい内容はなかった。ASEANは2015年に共同体創設を目指しているため、今回の共同声明見送りを重く見たインドネシアが音頭を取ってとりまとめたものであるが、中国が「行動規範」の協議に応じる見込みはなく、南シナ海の緊張が今後も続くことが予想される。