音声カットを恐れリモート討論拒否
忠実な側近らへの大統領のこうした態度は勝利の見通しが暗くなりつつある情勢に対する焦りの表れだ。15日に予定されているバイデン氏との第2回テレビ討論会を拒否したのも焦燥感のなせる業だろう。大統領がウイルスに感染した事実に伴い、ディベート管理委員会が安全性の観点から討論をリモートによる方式に変更したことに熟慮せずに反応してしまった。
第2回討論会はフロリダ州マイアミで有権者が両候補に直接質問するタウンミーティングと決められていた。しかし、同委員会は大統領の感染を考慮し、両候補がリモートで参加するやり方に変えた。バイデン氏がこれに同意したものの、トランプ氏は「バーチャルな討論に費やす時間はない。コンピューターの前に座ってやるディベートなど馬鹿げている」と反対を表明。22日に延期して対面方式でやり、29日に3回目の討論を開催するよう要求した。
討論会はもともと、9月29日、10月15日、同22日の3回が予定されており、バイデン陣営は感染に無責任な行動を取ってきたトランプ氏が日程を決めることはできず、あくまでも22日が最後の討論会だと主張している。トランプ氏は討論会を劣勢挽回の切り札と想定してきた。だからこそ、1回目の討論会でバイデン氏の発言を妨害しても存在感をアピールしようと無理したわけだ。しかし、リモートによる討論になれば、持ち時間を上回ったり、不規則発言を繰り返した場合、委員会側から一方的に音声をカットされる心配もある。これを恐れ、拒否したものと見られている。
だが、リモートであっても討論会を拒否してしまえば、バイデン氏を圧倒する機会が消えることになり、トランプ氏には大きな打撃だ。「焦りのあまり、的確な判断ができず、言動が怪しくなくなりつつある」(アナリスト)のかもしれない。大統領の政敵である民主党のペロシ下院議長はトランプ氏が投与されている薬でメンタル面を損なっているのではないか、との懸念を示唆していた。
大統領が投与されているステロイド系の抗炎症薬デキサメタゾンは精神的な高揚を促す効果があるとされている。下院の一部は超党派でトランプ氏のメンタル面を含めた健康状態をチェックし、異常があれば「修正憲法第25条」に基づいて大統領の権限はく奪を議会に勧告する法案を検討しているという。大統領の署名が必要なため、法案が成立する可能性はないが、民主党は大統領の精神的な不安定さを強調することを狙っている。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。