2024年4月25日(木)

WEDGE REPORT

2020年10月3日

トランプ大統領の感染を受けて、報道対応に追われたケイリー・マクナニーホワイトハウス報道官(REUTERS/AFLO)

 トランプ大統領夫妻が新型コロナウイルスに感染した。10月2日未明、大統領自らツイッターで明らかにしたが、11月の大統領選挙まで32日に迫る中での驚がくの出来事はまさに“オクトーバー・サプライズ”(元米政府高官)。トランプ陣営には深刻な打撃で、選挙戦略を根底から見直すことを余儀なくされるのは必至。選挙の行方は大統領の病状の重さに大きく掛かっている。

遊説やディベートは中止に

 ニューヨーク・タイムズなど米メディアによると、大統領の現時点での病状は「良好で、執務には支障がない」(ホワイトハウスの主治医)とされ、当面は居住区での隔離治療となる見通し。大統領の声が「濁っていた」との報道もあるが、感染のせいかどうかは明らかではない。

 トランプ大統領は9月29日、中西部オハイオ州クリーブランドで民主党の大統領候補バイデン前副大統領と激しいディベート(討論会)を行った後、30日にはミネソタ州で遊説、10月1日は東部ニュージャージー州の自身のゴルフ場で資金集めの会合に出席するなど精力的に動き回った。

 大統領は連日のようにウイルス感染の有無を調べるPCR検査を受けているが、今回とりわけ検査に積極的だったのは側近中の側近といわれるホープ・ヒックス大統領顧問の感染が直前に判明していたからだ。ヒックス氏はほとんど、大統領のそば近くに控えているが、30日のミネソタ州の遊説中に体調が悪化。ワシントンに戻る大統領専用機中では隔離状態のまま、到着後も大統領らとは別に後部ドアから降りた。

 翌10月1日の夜、大統領はお気に入りのフォックス・ニュースの「ショーン・ハニティ・ショー」に電話出演し、ヒックス氏のウイルス感染を確認、自らも検査結果を待っていると話した。大統領がツイッターで、メラニア夫人とともに感染していることを明らかにしたのはこの数時間後のことだ。

 大統領がウイルスに感染したことによってトランプ陣営の再選戦略が根底から覆り、全面的な見直しを迫られるのは必至だ。大統領は年初から、全米レベルでバイデン氏に平均支持率で6~7ポイント前後の後れを取り続けている。このため陣営は、コロナ禍をものともしないように遊説を積極的に行って、遊説に慎重なバイデン氏との勢いの違いを見せつける一方、ディベートでは同氏を攻撃し続けて圧倒、無党派層を取り込んで逆転するシナリオを描いていた。

 しかし、ウイルスの感染でこの再選戦略は瓦解した。トランプ氏は2日に南部フロリダ、3日に中西部ウィスコンシン、5日に西部アリゾナという激戦州を遊説する予定だったが、すべてキャンセルせざるを得ない。またディベートは後2回、15日と22日に計画されているが、これも中止か延期になる可能性が大きい。第1回のディベートは大統領の再三の妨害で前代未聞の中傷合戦になり、中止すべきだとの声も上がっていた。

軽視の果ての帰結

 しかし、大統領の感染には、科学者や医療専門家らの助言に耳を傾けようとせず、ウイルスを軽視し続けてきた帰結だという声が強い。大統領は「(ウイルスは)暖かくなれば、奇跡的に消え去る」「感染は完全にコントロールされている」などと楽観論を繰り返し、ウイルス対策の初動が大きく遅れることになった。その結果、米国は感染者700万人という世界最悪の感染国となり、死者は20万7千人を超えた。

 しかも、この楽観論はワシントン・ポストの著名記者ウッドワード氏によると、大統領は実際にはウイルスが「致死的」であることを知っていて、国民にウソをつき続けたのだという。大統領は国民をパニックに陥れたくなかったと弁明しているが、選挙を左右する頼みの経済に悪影響を与えないためだった、という疑念が残る。

 大統領はマスクについても「着用するつもりはない」と公言し、感染の拡大で7月になってやっとマスク着用の必要性を認めたものの、積極的にマスクを着ける姿勢は見せなかった。8月の共和党大会の最終日にはホワイトハウスの南庭に約千人の支持者を招待したが、参加者のほとんどはマスクを着用していなかった。遊説先の集会でも大統領を含め、マスクを着ける人は見かけない。

 この大統領の態度が鮮明に出たのはディベート時のやり取りだ。トランプ氏は「必要な時にはマスクを着ける」としながら、「私はバイデン氏のようにマスクはしない。彼は60メートルも対人距離があるのにマスクをしている。見たこともないでかいマスクをだ」と嘲笑して見せた。

 だが、こうした大統領のウイルスの危険性を軽視する姿勢は国民をリスクにさらした懸念がある。大統領はヒックス顧問が発症した翌日の10月1日にニュージャージー州の資金集めの会合に出たが、CNNは「大統領がその時既に、ヒックス氏の感染を知っていたのではないか」と報じており、ヒックス氏から自らも感染した可能性を知りながら、会合に顔を出し、参加者らを感染の危険にさらした疑いがもたれている。


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