トランプ米大統領は9月26日、今月死去したリベラル派のギンズバーグ最高裁判事の後任に、保守派の女性連邦高裁判事エイミー・バレット氏(48)を指名すると発表した。最高裁判事の構成は圧倒的に保守色が強まることになる。大統領は11月の選挙で敗れても、法廷闘争に持ち込んで政権の座に居座ることをチラつかせており、今回の人事はその布石との見方が出ている。
法廷の判断なければ、開票は“ホラー・ショー”に
バレット氏は7人の子供(2人は養子)がいる敬虔なカトリック教徒。カトリック系の名門、中西部インディアナ州のノートルダム大法科大学院を修了した後、保守派の最高裁判事の調査官や同大学院の教授などを歴任した。最高裁判事就任もトランプ大統領の指名による。人工中絶の反対論者として知られ、リベラル派は人工中絶の合法化判決が覆されるかもしれないと懸念している。
最高裁の判断は人工中絶や銃規制、死刑の有無など米社会を二分する問題の行方に重大な影響をもたらすだけに国民の関心が高く、政治利用されやすい。バレット氏が承認されれば、定員9人の最高裁判事の構成は保守派6人、リベラル派3人となり、保守派優位となる。トランプ氏はこれまで最高裁に2人の判事を送りこんでおり、今回が3人目だ。
民主党は大統領選直前になっての最高裁判事の指名は例がないとして反対。指名は新しい大統領に委ねるべきだと主張しているが、承認審議が行われる上院は共和党が多数派で、阻止は不可能。共和党内の「反トランプ」の急先鋒であるロムニー上院議員もバレット氏の指名に反対しないと明言しており、10月後半にも承認される見通しだ。世論調査では、国民の過半数は選挙前の指名に反対だ。
上院共和党は2016年、オバマ前大統領の指名した最高裁判事を「大統領選が迫っており、新しい大統領に人事を委ねるべきだ」として審議を拒否したいきさつがあり、承認を急ぐ理由に説得性がない。しかも拒否した時は、大統領選まで237日もあり、今回のように差し迫ってはいなかった。
問題は「選挙前に是が非でも決める」というトランプ大統領の姿勢である。コロナ禍で郵便投票が増えることに危機感をむき出しにする大統領はかねてより「郵便投票は不正の温床だ」と批判。「選挙に負けるとすれば、不正が起きた場合だ」などと根拠を何ら示さないまま、郵便投票を容認しないとする発言を繰り返してきた。
大統領は先週の会見で「(選挙に負けた場合)平和的な政権交代に応じるのか」と聞かれ、「何が起きるか見てみる必要がある」と明確に言及することを避け、選挙結果を尊重しないこともあり得ることを示唆した。その上で、選挙管理当局が郵便投票分を無効にすれば「政権は継続する」と述べた。
大統領は最高裁判事の空席を急いで埋めなければならない理由として、最高裁が選挙の勝者を決めることになるかもしれないと指摘し、選挙の結果が法廷闘争に持ち込まれる可能性を示唆。大統領はフォックス・ラジオでも「最高裁がバイデン勝利を判断すれば従うが、法廷の決定なしでは、開票が“ホラー・ショー”(ホラーの出し物)になってしまうだろう」と語った。