2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2020年10月7日

 新型コロナウイルスに感染して入院していたトランプ米大統領は10月5日、首都ワシントン近郊の軍医療センターから退院を強行し、3日ぶりにホワイトハウスに戻った。大統領は「ウイルスを恐れるな」などとコロナに打ち勝った強い指導者を“演出”し、選挙戦へ復帰しようとしているが、「国民に危険なメッセージを送るもの」と強い批判が出ている。

退院したトランプ大統領(REUTERS/AFLO)

週末をスパで過ごしたような言い回し

 大統領はホワイトハウスに戻った直後、バルコニーに姿を現してわざわざマスクを外し、顕在ぶりを誇示して見せた。だが、メディアは階段を上る途中で大統領が「息切れ」していたとも伝えており、相当無理していることがうかがえる。ホワイトハウスの医師団は「完全に回復しているわけではない」としており、退院を強行したと見られている。

 大統領がPCR検査で陰性を示し、コロナから完全回復したことを確認するには1週間から10日程度必要とされており、それまでは高齢で肥満の大統領には重症化のリスクもある。ホワイトハウスの居住区の一角は高度の医療機器が設置された病室になっており、退院したと言っても実質的には“転院”のようなものだ。順調にいっても12日前後までは警戒が必要だという。

 医師団は当初、大統領の病状が軽いことを強調し、懸念される時期があったことを暴露したメドウズ首席補佐官の発言と相反する情報が飛び交った。しかし、その後、主治医であるコンリー海軍少佐が2日と3日の2度、大統領の血中酸素濃度が95%以下に低下し、酸素吸入を受けたことを公表し、病状が不安な状態であったことが明らかになった。

 バイデン前副大統領に後れを取るトランプ陣営にとって10月の今の時期は「追い上げ、差を詰める」期間という戦略を描いていた。だからこそ大統領は治療中の4日に入院中の医療センターを車で抜け出し、支持者らに元気な姿を見せ、3日間という短い期間で退院を強行せざるを得なかった。

 ニューヨーク・タイムズによると、陣営の一部は大統領が2日に酸素吸入を受けて苦しんでいる時でさえ、感染した大統領がすぐに退院できれば、選挙運動をリセットし、ウイルスに打ち勝った指導者という新たなイメージを売り込む機会になると冷徹に分析していたという。大統領はホワイトハウスに戻った後、「ウイルスを恐れるな。コロナに支配されるな。打ち勝つんだ」とツイート、「選挙戦に間もなく復帰する」と発信した。

 トランプ陣営は前回の2016年10月7日、トランプ氏の女性を性的に蔑視した「アクセス・ハリウッド」の録音テープが明るみに出て、一時は万事休すと思われた時も「沈没せず蘇った」として、このシナリオの再来を思い描いている。今後は「隠れトランプ」の掘り起こしに全力を投入する計画だ。

 大統領は退院前、トランプ政権下での新薬やワクチン開発の推進をアピール。「20年前よりも体調が良いくらいだ」とも主張し、提供された最高レベルの医療で回復したと自慢した。だが、米紙はこのツイートを「週末をスパで過ごした後のような言い回し」とし「復帰すれば、ウイルスについてさらに誤った発言を長々としゃべるだろう」と批判的に指摘している。


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