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2020年10月13日

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土方細秩子 (ひじかた・さちこ)

ジャーナリスト

ボストン大学コミュニケーション学部修士課程終了、パリ、ロサンゼルスでテレビ番組製作に携わり、1993年より米国でフリーランスのジャーナリスト活動を行う。

無償提供の財源はどこにあるのか

 しかし実際のところ、大統領の回復に何が効果的だったのかは分からないままだ。投与された別の薬が効いたのかもしれないし、元々それほど重症ではなかったのかもしれない。今の時点でリジェネロン社にあまりにも注目が集まりすぎることは、同社にとってプラスばかりではない、という医薬品業界アナリストは多い。

 まず、薬としてそれほど効果がない、と判明した場合や、承認を急ぎ過ぎて副作用が後から問題になった場合、当然同社にとっては命取りになる。次に、大統領は国民すべてに無償で提供、と大風呂敷を広げたが、同社の製薬能力は承認を受けたとして5万人分程度を提供するのが精いっぱい、今年末までに30万人分を作れるか否か、という段階だ。注文が殺到しても薬を供給できなければ同社の評判を下げることにつながる。

 そもそもコストが現時点では1回の投与に6万ドルともいわれており、大統領の言う無償提供の財源はどこにあるのか、ごり押しをして国民の税金で賄ったとしても、それで効果がそれほど見込めない場合誰が責任を取るのか、という問題もある。

 そもそも抗体カクテルの開発に着手している企業は他にもあるのに、なぜリジェネロンが選ばれたのか。それはトランプ大統領と同社の重役が懇意であり、これは権力を使った利益の供与に値しないのか、という疑問も起きている。

 2人の重役が株を売却した件について、同社は「元々一定の株価に達したら自動的に売却する、というオプションがあり、意図したものではない」と返答した。しかし同社の株価は夏までは600ドルを超えていたため、これは苦しい言い訳と捉えられている。

 内部の人間が抗体の効果について疑問を抱いていたのか、あるいは大統領発言で注目が集まりすぎたことが逆に同社に不利になり、今後株価が下落する恐れがある、と判断して売却したのか。今後SCE(米公正取引委員会)が調査に乗り出す可能性もあるが、ひとつ分かるのは抗体カクテルは決して魔法の薬ではなく、期待しすぎるとそれ以上の失望につながりかねない、という点である。

  
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