2024年11月22日(金)

From LA

2020年10月13日

12日、フロリダ州オーランドサンフォード空港で集会を行ったトランプ大統領(AP/AFLO)

 米トランプ大統領がコロナ感染から奇跡的な回復を見せ、その理由のひとつがリジェネロン社による人間の抗体から作った治療薬、REGN-COV2だと言われている。大統領は「素晴らしい薬だ。私はこれを国民全員に、無料で提供することを約束する」などと発言し注目を集めた。

 REGN-COV2は大統領に投与された時点ではまだFDA承認を受けておらず、特例措置として投与されたのだが、大統領がこの薬を絶賛したことでリジェネロン社の株価は急上昇した。同社の株価は過去1カ月の間560ドルから580ドルの間で動いていたが、10月5日には605ドルに跳ね上がったのだ。

 同社の株は過去半年の間、新薬開発への期待から高値をつけていた。最高で7月の658ドルだったが、その後新薬への承認が進まないことで9月以降は落ち込んでいた。600ドルを超えたのは実に9月2日以来のことだった。

 そのリジェネロン社にインサイダー取引の疑惑が起きている。米NBCニュースによると、株価が600ドルを超えた10月5日、同社の2人の重役が合わせて1万株以上を売却、100万ドル以上の利益を得た、という。

 売却を行ったのは同社取締役会のメンバーであるジョゼフ・ゴールドスタイン氏と上級副社長でコマーシャル部門のトップであるマリオン・マッコート氏の2人で、これによりゴールドスタイン氏は74万ドル、マッコート氏は26万ドルを手にした。

 NBCによるとコロナパンデミックの中で企業のインサイダーと見られる取引は急増しており、マーケットビート社からのデータとして今年こうした取引で売却された株はすでに2億4800万ドルを突破しているが、これは昨年の1億4200万ドル、一昨年の1億4300万ドルと比べてかなり多い、としている。しかも今年はまだ2カ月以上を残している。

 ただし問題は、リジェネロン社の上層部がなぜ焦って株を売却したのか、という点だ。株価が上昇したのが月曜日、2人はその日のうちに取引を行った。しかし同社はトランプ発言とその後の病状の軽快などを見て、FDAに対し薬の緊急承認を行うよう水曜日には要請している。

 その後大統領の無償で提供発言もあり、医療の現場ではREGN-COV2を投与してほしい、という患者が激増し、対応できない状況が続いている、という。

 大統領発言は良くも悪くも人々に影響を及ぼす。コロナが流行し始めた当初、大統領はマラリア治療薬であるハイドロキシ・クロロキンが効果がある、と主張し「私は毎日服用しているからコロナにかからない」などと発言した。これを聞いてこの薬を服用する人が増え、中には間違って名前が非常に似ている熱帯魚用の水槽消毒薬を服用した夫婦が死亡する、という事故まで起きた。

 その後も消毒薬を体に入れると良い、と発言すれば消毒薬や漂白剤を服用する人が増えて事故件数が増えたことも話題となった。結局コロナに感染してしまったのだから、これまでの発言は正しくなかったと証明されたはずだが、今回は実際にり患して回復した、という事実があるだけに、REGN-COV2に対する期待度はこれまでとは段違いだ。


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