WEDGE REPORT

2020年11月1日

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秋元諭宏 (あきもと・さとひろ)

笹川平和財団米国会長兼理事長

慶應義塾大学法律学部法律学科卒業。ハーバード大学大学院東アジア学修士・社会学博士。米国三菱商事上級副社長兼ワシントン事務所長、三菱商事理事・グローバル渉外部長など歴任。2019年1月に笹川平和財団米国の理事長に就任し、同年10月から現職。ジャパンタイムズ、岡崎研究所に定期的に寄稿。

日本を世界から必要とされる国へ
菅政権への期待

 日本は戦後、国力に比較して応分とは言えない、国際社会における小さい存在感にとどまってきた面がある。国際機関において米国に次ぐような拠出金を提供しながら、意思決定に直接関与する高官は少なく、発言力も限定されていたのが一例だ。

 そうした中で、安倍政権下の日本が、自由貿易協定(FTA)などの実務及び地域安全保障の構想で指導力を発揮し、国際社会における日本の役割を高めることができたのは、民主主義国・市場経済国が共有可能な大きな価値を掲げたことが理由だ。戦略国際問題研究所のジョン・ハムレ所長は安倍晋三前首相の辞任発表直後の会合において、「米国が混乱し国際指導力を発揮しなくなった中、進歩的な西側の価値を掲げてくれた安倍首相には永久に感謝する」という主旨の発言を行った。

 かつて、ハーバード大学のサミュエル・ハンティントン教授は著書『文明の衝突』(集英社)の中で、文化が国際政治に及ぼす影響を重視し、中華文明、ヒンドゥー文明、イスラム文明、東方正教会文明、西欧文明など、世界をいくつかの文明圏に分類したが、一国一文明は日本だけで孤立する文明と位置付けた。日本は日本人が基本的に共有する文化価値を築き上げたが、その本質は日本に固有のものであり、その論理は異文明間の意思疎通にそのままでは通用しない場合が多い。

 グローバル化が進行する中、異文明に基づく国々が自国の国益増進と影響力拡大のために鎬を削る外交問題では、国際社会が理解可能な共通の語彙と論理で議論することが重要だ。日本の特殊事情を説明して理解を求めることは説得性が無く立場を悪くしかねない。韓国における慰安婦問題を例に挙げれば、「強制性の有無」に関する議論より「女性に対する罪」という糾弾が、国際社会の理解を得ることに繋がっている。事実、安倍政権が「女性が輝く日本」を打ち出したことは、女性の指導者を中心にして国際社会から関心をもって受け入れられた。

 国際社会に受け入れられる論理に基づき、外交を推進し実績を挙げた意味で、安倍政権は戦後の日本では例外的な存在である。米国のアジア政策専門家は、菅政権下における国際社会に対する立ち位置が安倍政権を踏襲するのか、変化するのかに注目している。

 菅義偉首相は就任記者会見で、デジタル庁創設など「縦割り行政の打破」で独自色を打ち出しつつ、外交においては日米同盟を基軸として国益を守る、そのために自由で開かれたインド太平洋を戦略的に推進する、中国、ロシアを含む近隣諸国との安定的な関係を築くと述べ、基本的に安倍政権の姿勢を引き継ぐ方針を示した。米国との同盟関係を強化しながら、民主主義、自由などの価値を共有する国々と戦略的連帯を促進し、リベラルな国際秩序を信望する同盟国と友好国の総和により、強大な中国との機会を増進し、脅威を抑制することが望まれる。

Wedge11月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■トランプVSバイデン  戦の後にすべきこと
Chronology  激化する米中の熾烈な覇権争い      
Part 1        21世紀版「朝貢制度」を目論む中国  米国が懸念するシナリオ          
Part 2          激化する米中5G戦争  米国はこうして勝利する   
Part 3          選挙後も米国の政策は不変  世界情勢はここを注視せよ          
Part 4          変数多き米イラン関係  バイデン勝利で対話の道は拓けるか
Column 1   トランプと元側近たちの〝場外乱闘〟     
Part 5          加速する保護主義  日本主導で新・世界経済秩序をつくれ
Part 6          民主主義を揺るがす「誘導工作」  脅威への備えを急げ
Part 7          支持者におもねるエネルギー政策  手放しには喜べない現実
Part 8        「新冷戦」の長期化は不可避  前途多難な米国経済復活への道    
Column 2     世界の〝プチ・トランプ〟たち
Part 9        日米関係のさらなる強化へ  日本に求められる3つの視点      

  
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◆Wedge2020年11月号より

 

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