2024年4月19日(金)

From LA

2020年11月27日

「金持ちの白人が考えるプアホワイトの人々の暮らし」

 そうした背景を語らず、「金持ちの白人が考えるプアホワイトの人々の暮らし」を描いてしまったことで映画の深みが失われてしまった。

 プアホワイトの暮らしを描きながら人々を深く考え込ませる映画が存在しないわけではない。例えばクリント・イーストウッド監督の描くアメリカはプアホワイトに焦点を当てながら米国社会の歪みを自然と人々に感じさせる。見終わった後に苦い感情が残るものも多いが、そういう社会が存在するのだ、と思わざるを得ない。

 ヒルビリー・エレジーにはその深みが欠けている、と言える。家族間の葛藤もあれば社会問題もあり、涙も笑いもあるが、主人公が最後にそこから脱出してエリートの一員になることで全てが昇華されてしまう、まさにハリウッド的世界にまとまってしまった。

 ネットフリックスとハワード監督はアカデミー賞を意識してあえてこうした作りにした、とも言われるが、「人々が政治劇に飽きてしまった」という一面もある。今回の大統領選挙が接戦になったにもかかわらず、あまり盛り上がらずに尻切れトンボ的終結を迎えようとしているのがその証左だろう。

 オハイオ州は今回も選挙でトランプを選んだが、同じくラストベルトのペンシルバニアはバイデンに傾いた。4年前人々がトランプに見た希望は蜃気楼だった、ということにヒルビリー達は気づき始めている。それが今後の米国にどのような影響をもたらすのか、バイデン政権の中で人々の絶望は増すのか、それとも新たな希望を見出すことが出来るのか。映画よりも現実は数歩先を行っている。

  
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