アジアシフトと人口減への歯止め
それにしても、プーチン大統領をはじめとするロシア政府はなぜこれほど極東に肩入れをするのだろうか。
理由は2つある。ひとつはロシアが迫られている貿易の多角化だ。ロシアの貿易高のうち対EUは輸出で5割強、輸入で4割強と、ロシアはこれまでEUとの密接な経済関係をもってきた。
しかし、ヨーロッパが債務問題の泥沼にはまり、ロシアの稼ぎ頭である石油やガスもEU向けで大幅な増加は期待できない。そうなれば、新たな輸出先としてアジア市場の開拓が迫られる。そのための窓口として極東の開発が急務になっているわけだ。
さらに、極東開発にプーチン政権が本腰を入れるもうひとつの理由が、この地域の人口減少に歯止めがかからないことだ。沿海地方やサハリン州などからなるロシア極東は、面積こそ日本の16倍と広大だが、人口は2011年の統計でわずかに628万人。ソ連崩壊後の20年間で2割も減少した。
近年、ロシアは資源価格の高騰を追い風に経済成長を続けてきたが、繁栄はモスクワやサンクトペテルブルグなどヨーロッパに近い地域に限られ、極東は取り残されてきたのが実情だ。ロシア中心部から遠く輸送コストがかかるために物価が高く、ソ連時代にあった給与などの優遇策もなくなり、雇用の場も十分でない。いまもモスクワ方面への移住を希望する住民が少なくない。
これに歯止めをかけ地域格差を是正するのがプーチン政権にとって至上命題となっている。巨大な国土の保全がかかっており、大規模な開発プロジェクトはそのために欠かせないものだという。「08年のリーマンショックのときに他の地域への資金が削られても極東開発だけは別でした。そのあたりからも政権の本気度がわかります」(ロシアNIS経済研究所・齋藤大輔研究主任)。
今年5月の就任早々、プーチン大統領は「極東発展省」の新設を明らかにした。この省がどのような権限を持つのかまだ不透明な部分も多いが、モスクワではなくウラジオストクと並ぶ極東の主要都市・ハバロフスクに本部が設置され、APEC後の極東開発を担当するという。特定の地域の経済発展のために専門の省庁を設けることは異例のことで、APEC開催の単発だけでなく、引き続き極東開発を進めるというプーチン大統領の強い意思がうかがえる。
(記事内写真はすべてWEDGE編集部撮影)
*特集取材班のウェブ特別篇「ロシア極東ビジネスにどう参入するか」はこちら
以上の記事は、WEDGE9月号特集の第1部を圧縮したものです。
特集 『APEC開催に沸く ウラジオストク現地ルポ』
◎1.8兆円が投下 巨大開発進む極東
◎東にシフトするロシア産石油・ガス
◎シベリア鉄道と極東の自動車生産〔マツダ、トヨタ、日本通運、TAU〕
◎先を見据える韓国と軋轢生む中国
◎APEC後の極東 甘くない将来
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