9月に開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会合を前に、開催地のロシア極東のウラジオストクでは、プーチン政権肝いりの巨大開発が進み、ウラジオストク市内ではいたるところで建設工事が続き、活気づいている。プーチン政権は、APEC後も極東の経済開発に力をいれていくことを再三表明しており、日露共同による天然ガスの開発プロジェクトも控えており、ビジネスチャンスはまだたくさんある。
これを商機とばかりに、中国や韓国の企業はロシア極東への進出を急ぐ一方で、日本企業の存在感はやや薄い。それでも、現地に営業拠点を構えるところも増えており、そうした日本企業の事例を紹介しよう。ロシアでのビジネスといえば、「リスクが高い」というイメージが強い。合弁相手とトラブルとなった、ロシア政府当局から難癖をつけられた、といった例は枚挙にいとまがない。極東でのビジネスを始めた日本企業はリスクをどうやって克服したのだろうか。
横断橋のコンクリートは日本企業が納入
ロシア太平洋艦隊の司令部もあるウラジオストクの金角(ザラトイログ)湾。トルコのイスタンブールに似た地形から、イスタンブールにある湾と同じ名前がつけられたこの湾をまたぐように架けられたのが、金角湾横断橋だ。湾を見下ろす高台に上ると、地元や海外からの観光客が横断橋を背景に記念写真を撮る姿が引きも切らない。
8 月11日に開通したばかりのこの橋の全長は1900メートル。主塔と呼ばれる巨大な柱が湾の両岸に2本ずつ立てられ、主塔から張られたワイヤーが橋桁を支える。主塔の高さは260メートル。橋桁の重みに耐えうる十分な強度を持ち、しかも寒冷地の気候に適した特殊なコンクリートが欠かせない。
橋の建設を政府から請け負った地元の橋梁建設会社・TMKから2009年に主塔に用いる9万立米分の生コンの納入を受注したのは、ロシア極東と似た気候条件の北海道に本社がある會澤高圧コンクリートだ。同社ではかねてから中国などの海外事業を展開してきたが、08年にロシア極東に合弁会社を設立したばかりだった。これまでにも北海道で最高層ビルのJRタワーの生コンを手がけ、道内でも屈指の生コン製造会社だが、同社の會澤祥弘社長はロシア進出のねらいをこう語る。
「コンクリート業界は国内では市場が縮小する一方ですが、海外ではまだまだこれからです。APEC関連の開発事業やエネルギー関連などで有望だと考えていたほか、北海道にも近く、かねてからロシアで仕事をしてみたいと考えていたのです」