2022年7月7日(木)

WEDGE REPORT

2021年1月20日

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渡部恒雄 (わたなべ・つねお)

笹川平和財団上席研究員

1963年生まれ。東北大学歯学部卒。95年米ニュースクール大学政治学修士。同年米戦略国際問題研究所(CSIS)に入所、上級研究員等を歴任。三井物産戦略研究所、東京財団を経て2017年より現職。近著に『2021年以後の世界秩序』(新潮新書)。

 このようにバイデン氏は大統領選挙で協力し、勝利に貢献した党内左派を無視することはできない。気候変動対策重視を打ち出し、担当大統領特使にジョン・ケリー元国務長官を指名したことも、左派への配慮の側面がある。

 したがってバイデン政権は厳しい対中認識を前政権と共有しながらも、党内左派に配慮することや、前政権との違いを打ち出すために、気候変動対策などで中国との対話の余地を残すという、ややソフトなものになるだろう。これは、中国に対する圧力という点ではマイナスだが、対立のエスカレートによる無用な衝突を防ぐという点ではプラス面もある。いうまでもなく日本にとっても米中の軍事衝突は悪夢だ。

中国からの軍事的な挑戦を
阻止することが政策の中心

 ただし日本は、今後のアメリカの長期的な対中政策は、トランプ政権以前の政策には戻らないという認識を持つ必要がある。かつての対共産圏「封じ込め」政策とはニュアンスは異なるが、これまでの「協調的関与政策」とは一線を画した政策枠組み(パラダイム)に転換するだろう。

 アメリカにおける米中経済関係への期待や楽観は消え、中国を軍事的なライバルと明確に認識し、アメリカや同盟国からの最先端の軍事および汎用技術・製品が中国に流入して、自らの軍事的優位を損なうことがないように、「選択的デカップリング(分断)」政策をとるだろう。そして、アメリカおよび同盟国に対する中国からの軍事的な挑戦を抑止することが安全保障政策の中心となる。この政策枠組みの転換を一言でいえば「協調的関与政策」から「対抗的関与政策」へのパラダイムシフトということになる。

 米中対抗関係の長期化こそが、日本の今後の外交・安全保障戦略の大前提となるだろう。日本の国益にとっては、アメリカが中国の脅威について厳しく認識することと、「封じ込め」ではなく「対抗的関与政策」をとることは歓迎である。中国が軍事力でアメリカを逆転できる能力を持つことは、日本の安全保障上の悪夢のシナリオだが、一方で、日本経済にとって中国経済を完全に切り離す(全面的デカップリング)ことも別の悪夢だ。

 しかも強大化する中国も困るが、弱体化する中国も懸念事項だ。拡大する貧富の格差と不十分な福祉政策、そして少子化という時限爆弾を抱える中国で経済成長が停滞すれば、政府への不満は大きくなり、共産党統治への大きなリスクとなる。

 強大な核兵器と通常軍備を持つ中国の統治が弱体化すれば、国内の不満を外に向けるための対外強硬策へのハードルがさらに下がるだろうし、最悪の状況としては戦前の軍閥割拠のような内戦すら起こり得る。これは周辺国や日米にとって悪夢のシナリオである。この点で、地政学上、中国と太平洋を隔てているアメリカよりも日本はより深刻な状況を抱えることになる。

 中国は、トランプ政権とバイデン政権の違いを、中国共産党の体制変革(レジームチェンジ)を追求するかどうか、と考えているようだが、実際のところ、平和的でない中国の体制変革は、むしろ日米にとっては避けたいシナリオだ。一方で、中国との軍事衝突のリスクを回避しながらも、アメリカの優位(プライマシー)を維持し、中国に圧力をかけて国際ルール尊重の方向に行動を促す努力も必要だ。

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