対中国の「コスト強要戦略」は
日本の戦略として考えておく
現在の特徴は、アメリカの中国に対する軍事力・経済力の優位性が、かつての対ソ冷戦時代の頃とは比較にならないほど小さくなっていることだ。かつてのソ連の経済力は、すでにグローバル経済で世界と繋がっている現在の中国とは比較にならないほど脆弱だったという事実は、前述のサリバン・キャンベル論文も認識している。彼らも指摘しているが、かつてのような対ソ冷戦期の発想で中国に向き合ってもうまくいかないだろう。
一方で、かつてアメリカがソ連に対して最終的に勝利した要素である「コスト強要戦略」という発想は、引き続き意味を持つだろう。ただし、今のアメリカ側には、現在ではアメリカこそが、中国からコストを強要されているという問題意識もある。だからこそ、同盟国との協調によりアメリカのコスト負担を持続的なものにして、中国に対峙する「コスト強要戦略」は、日本の戦略として考えておく必要がある。
ただし、その目標は中国の崩壊ではなく、将来にわたり中国の行動を変えていくことだ。その意味で、同盟国重視を打ち出してはいるが、国内問題に足を取られているバイデン政権に対して、アジアの同盟国と有志国のネットワークを繋げて、日本が働きかける絶好の機会でもある。
菅義偉政権下でも日本の長期的戦略は変わらないはずだ。インド、オーストラリアという民主主義国との日米によるクワッドの連携、東南アジア諸国連合(ASEAN)やカナダ、欧州諸国(できれば韓国も)などと共に、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の実現を共有することだ。そのための日本のイニシアティブはアメリカにとっても重要なはずだ。中国国内のナショナリズムの高まりから、いまや中国の「戦狼外交」は周辺国から警戒され、豪印も厳しい対中姿勢をとるようになってきた。
ただし、日本のFOIPには二つの側面があり、両方を認識することが重要だ。①リアリズムの側面として、アメリカの同盟国の軍事力を中国と均衡させ、中国の軍事的な冒険による現状変更の試みを抑止すること。冒険の対象は尖閣諸島や台湾である。②リベラリズムの側面として、これまでインド太平洋地域の安定をもたらしてきた国際秩序や経済ルールを安定させ・支持することで、地域の経済的安定を維持すること。
日本は「アメリカファースト」のトランプ政権ともFOIPの協力を深めてきた。バイデン政権は、前政権以上に自国の軍事力拡大には大きな制約があり、同盟国・有志国への期待も大きいはずだ。日本のイニシアティブはますます重要となるだろう。
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