2022年7月2日(土)

WEDGE REPORT

2021年1月20日

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渡部恒雄 (わたなべ・つねお)

笹川平和財団上席研究員

1963年生まれ。東北大学歯学部卒。95年米ニュースクール大学政治学修士。同年米戦略国際問題研究所(CSIS)に入所、上級研究員等を歴任。三井物産戦略研究所、東京財団を経て2017年より現職。近著に『2021年以後の世界秩序』(新潮新書)。

対中国の「コスト強要戦略」は
日本の戦略として考えておく

 現在の特徴は、アメリカの中国に対する軍事力・経済力の優位性が、かつての対ソ冷戦時代の頃とは比較にならないほど小さくなっていることだ。かつてのソ連の経済力は、すでにグローバル経済で世界と繋がっている現在の中国とは比較にならないほど脆弱だったという事実は、前述のサリバン・キャンベル論文も認識している。彼らも指摘しているが、かつてのような対ソ冷戦期の発想で中国に向き合ってもうまくいかないだろう。

 一方で、かつてアメリカがソ連に対して最終的に勝利した要素である「コスト強要戦略」という発想は、引き続き意味を持つだろう。ただし、今のアメリカ側には、現在ではアメリカこそが、中国からコストを強要されているという問題意識もある。だからこそ、同盟国との協調によりアメリカのコスト負担を持続的なものにして、中国に対峙する「コスト強要戦略」は、日本の戦略として考えておく必要がある。

 ただし、その目標は中国の崩壊ではなく、将来にわたり中国の行動を変えていくことだ。その意味で、同盟国重視を打ち出してはいるが、国内問題に足を取られているバイデン政権に対して、アジアの同盟国と有志国のネットワークを繋げて、日本が働きかける絶好の機会でもある。

 菅義偉政権下でも日本の長期的戦略は変わらないはずだ。インド、オーストラリアという民主主義国との日米によるクワッドの連携、東南アジア諸国連合(ASEAN)やカナダ、欧州諸国(できれば韓国も)などと共に、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の実現を共有することだ。そのための日本のイニシアティブはアメリカにとっても重要なはずだ。中国国内のナショナリズムの高まりから、いまや中国の「戦狼外交」は周辺国から警戒され、豪印も厳しい対中姿勢をとるようになってきた。

 ただし、日本のFOIPには二つの側面があり、両方を認識することが重要だ。①リアリズムの側面として、アメリカの同盟国の軍事力を中国と均衡させ、中国の軍事的な冒険による現状変更の試みを抑止すること。冒険の対象は尖閣諸島や台湾である。②リベラリズムの側面として、これまでインド太平洋地域の安定をもたらしてきた国際秩序や経済ルールを安定させ・支持することで、地域の経済的安定を維持すること。

(出所)筆者作成 写真を拡大

 日本は「アメリカファースト」のトランプ政権ともFOIPの協力を深めてきた。バイデン政権は、前政権以上に自国の軍事力拡大には大きな制約があり、同盟国・有志国への期待も大きいはずだ。日本のイニシアティブはますます重要となるだろう。

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■資本主義の転機 日本と世界は変えられる
Part 1      従業員と家族、地域を守れ 公益資本主義で会社法を再建
Part 2      従業員、役員、再投資を優先 新しい会計でヒトを動機付ける       
Part 3      100年かかって、時代が〝論語と算盤〟に追いついてきた! 
Part 4   「資本主義の危機」を見抜いた宇沢弘文の慧眼
Part 5      現場力を取り戻し日本型銀行モデルを世界に示せ    
Part 6/1   三谷産業  儲かるビジネスではなく良いビジネスは何かを追求する    
Part 6/2   ダイニチ工業  離職率1.1% 安定雇用で地域経済を支える   
Part 6/3   井上百貨店  目指すは地元企業との〝共存共栄〟「商品開発」に込める想い 
Part 6/4   山口フィナンシャルグループ  これぞ地銀の〝真骨頂〟地域課題を掘り起こす
Part 7      日本企業復活への処方箋 今こそ「日本型経営」の根幹を問え

  
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◆Wedge2021年2月号より

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