三谷会長の子息で現社長の忠照氏。新型コロナウイルス感染症が拡大する中であっても、取引企業に資金支援を行った。決断の背景には「商社として創業したこともあり、当社単独で完結する事業というものはありえず、パートナー企業があってこその事業」という思いがあったからだ。「コロナによって不意に事業の前提が崩れ、苦境に陥ってしまう企業が増え、それによって取引先がなくなれば、当社が今後、事業を推進する上においても重大な影響を及ぼしかねない」(同)。取引先企業とは共存共栄なのである。
継承される
公益資本主義
過去を振り返れば、石炭が戦時中の統制物資となって販売ができなくなったとき、救ってくれたのが取引先だった化学品メーカーで、それが化学品を扱うきっかけになったという経験がある。
このような会社の物語は『充のつぶやき』(全1~5巻)という三谷会長のエッセイ本(社外秘)としてまとめられ社員に配布されている。このエッセイには会社の歴史からビジネスパーソンとしての心得、組織についてなど幅広いテーマが綴ってある。三谷会長は「社内規程を読んでない社員を叱責するのはナンセンス。読みたくなるように会社が工夫すべき」と指摘する。
実は忠照氏、原丈人氏のデフタパートナーズで3年間勤務した経験を持つ。この間、ビジネスコンテストに優勝して起業を果たすという経験もした。結果は失敗に終わったが、その経験が三谷産業主催でビジネスコンテストを開催するといったことにつながっている。「コンテストの結果にかかわらず、エントリーした企業とは、勉強会や交流会などを通じてフォローアップの機会を設けている」と、新しいビジネスが生まれるきっかけにもなるととらえている。
「『心のバランスシート(貸借対照表)』があるとすれば、人と人との関係性資本を厚くしながら社会に対する負債はできるだけ小さくし、資産を大きくして自社や自分自身の活動や影響の及ぶ範囲を増やして価値を生む。それによって負債を返済し、また資本を厚くするというサイクルになっていて、それは実際のバランスシートと表裏一体なのではないか」と、忠照氏。親子三代にわたる公益資本主義の実践は確実に同社の経営を支えているといえる。
■資本主義の転機 日本と世界は変えられる
Part 1 従業員と家族、地域を守れ 公益資本主義で会社法を再建
Part 2 従業員、役員、再投資を優先 新しい会計でヒトを動機付ける
Part 3 100年かかって、時代が〝論語と算盤〟に追いついてきた!
Part 4 「資本主義の危機」を見抜いた宇沢弘文の慧眼
Part 5 現場力を取り戻し日本型銀行モデルを世界に示せ
Part 6/1 三谷産業 儲かるビジネスではなく良いビジネスは何かを追求する
Part 6/2 ダイニチ工業 離職率1.1% 安定雇用で地域経済を支える
Part 6/3 井上百貨店 目指すは地元企業との〝共存共栄〟「商品開発」に込める想い
Part 6/4 山口フィナンシャルグループ これぞ地銀の〝真骨頂〟地域課題を掘り起こす
Part 7 日本企業復活への処方箋 今こそ「日本型経営」の根幹を問え
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