2024年12月6日(金)

家電口論

2021年2月25日

日本の家電の将来を見据えた、トルコ アルチェリク社との合弁会社設立

トルコアルチェリク社

 スマートホーム は進むべき道、来たるべき道ではありますが、世界中すぐさまそうなるわけではありません。国土インフラ(停電のない給電など)を考えると早くて半世紀、多分一世紀近くかかるのではないでしょうか?

 そんな中、日本の家電事業は生き残れるのでしょうか? 三洋、シャープ、東芝の家電事業は、海外メーカーの傘下になります。またパナソニックが、一部家電を欧州から撤退とジリジリ追い詰められつつあります。

 欧州(EU圏)の人口は約5億人。中国、インド、に継ぐ巨大市場。その市場を、ヨーロッパ、アメリカ、中国、韓国、その他 いろいろな国々が、いろいろな競争をしているのです。その中の一つに「トルコ」があります。

 トルコも中国と同じ、いろいろな文化が深い国です。世界三大料理は、フランス料理、中華料理、トルコ料理。フランスが「ソース」で食べさせる料理だとすると、トルコは「スパイス」で食べさせる料理。このスパイスを求めて、大航海時代で、ヨーロッパ諸国は海外に出て行ったわけで、トルコ料理は、その具現化というわけです。

 ヨーロッパの東端と言われるとトルコですが、トルコは「ヨーロッパの工場」とも言われています。安価な工業製品は、トルコで大量に作られ、ヨーロッパで消費されるのです。

 ある意味、世界の工場を標榜する中国に似ています。また、今では、トルコについでポーランドも、このヨーロッパの工場の地位を得つつあります。アルチェリク社は、トルコ最大の家電メーカーで創業は1955年。ちなみに、創業者のコチ氏は、家電以外でも成功した立志伝中の人物。コチ財閥を作り、アルチェリク社は、その中に入っています。黒物も使いますが、売りの8割は白物家電だと言います。

 ヨーロッパは、年収に合わせ、だいたい買うものの値段が決まっています。日本のようにモノに関して背伸びをすることはあまりないですね。以前円高の時、日本のOLがルイ・ヴィトンを買いに走った時、現地で呆れられたと言う話がありますが、そうでしょう。それが文化の違いということです。

 このため、ヨーロッパの家電メーカーは、漫然と総合家電メーカーにはなりません。それは作るものが多くなるほど、品質維持が難しく、最終的には値段勝負になる可能性が高いからです。このため専業で牙城を作ります。そしてできる限り、高級品にシフトしようとします。

 逆に、総合家電だと徹底網羅します。そんな時、ブランドが弱く、生産力を持つ(=コストに強い)トルコメーカーは、重宝されます。OEM生産、ODM生産などを引き受けるからです。

 さて、日本メーカーです。まず、日本の白物家電は、海外では黒物家電ほど強くありません。そして、その黒物家電の象徴、テレビで負けました。テレビの主導権は、今日本メーカーにありません。サムソンであり、LG電子であり、中国メーカーです。日本メーカーは、モノはいい、性能はいいという評価は残っているのですが、それだけでは、高価格商品は売れません。いわゆる「ブランド力」が必要なのです。当然、日本国内での評価=ヨーロッパでの評価とはなりません。

 そして流通。流通は、総合メーカーを好みます。一社で、ことが済むと、楽ですから。しかし、それは売れるモノがあっての話です。例えば、韓国のLG電子は、安いモデルも強いのですが、別に「シグネチャー」と呼ばれる、最高級モデルをもっています。デザインは、著名なデザイナーで、巨大。邸宅用のモデルですが、技術より、存在感で一頭抜けています。フラッグシップ モデルも強いのです。

 日本は、ここまでの強力なモデルは持っていません。低価格モデルも弱ければ、トップモデルもLG電子のような押しはないです。こうなると流通で扱ってもらうのには手間がかかります。

 この現状に、日立GLS社の選択が、トルコ アルチェリク社の共闘、合弁会社の設立です。

 日立GLS社の持ち株が、40%だったので、多くのメディアは海外事業を手放したかのように報じましたが、これは誤りです。谷口社長によると、ジョンソンコントロールズ日立空調と同じ手法で、問題がないことは立証済だといいます。こちらは、日立アプライアンス(現 日立GLS)の空調事業とジョンソンコントロールズが2015年10月1日に設立した合弁会社です。この時の株式の割合が、日立GLS:40%、ジョンソンコントロールズ:60%。この時の経験から、今回もその割合を採ったそうです。

 そして今回の合弁会社設立の目的は「補完」にあるといいます。ラインナップでは、日立が「プレミアムモデル」、通常モデルはアルチェリク社が用意します。ラインナップの弱いところを相互に補完します。

 販売ルートは、ヨーロッパ、南アジア、アフリカがアルチェリク社。東南&東アジア、中東、などは日立GLS社と、こちらも相互に補完します。何度もすり合わせをして決めた関係だそうです。

 日立の日本販売トップモデルは、冷蔵庫、洗濯機にせよ、かなり大きい。日本市場だと大き過ぎないかと思われるレベルですが、アジア、ヨーロッパの邸宅だと、小さめに感じられるのはないでしょうか? また、技術も練られております。白物家電の場合は、それらの技術を、エリアごとの文化に沿った形で提供しなければならないのですが、ラインナップを二分したので、実務は少なくなります。すり合わせなどで、時間は取られますが、より集中した商品化ができます。

2020年代のビジネスキーワードは「共」?

 スマートホームが、未だできないのは、情報が足らないことが一つの問題であり、それには他社の力を借り、作った方が自然であることがわかります。

 どんな形でも一度見本ができると、いろいろなメーカーが参入してきます。例えば、セキュリティが曖昧でもシステム発表すると、セキュリティは任せてというメーカーは出てきますし、どう家の中の家電が変わって行くのかが明確化されるので、ユーザーからいろいろな意見をとることもできます。

 今までの、数社で規格を作り、それに基づき競争だったのが、数社で企画を作り、共創する時代に入るのではないでしょうか? 今までは、技術が足らなければ、メーカーごと買うという買収だったのが、双方の能力をフルに活かせるスタイルに変わるのかもしれません。

  
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