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2020年12月22日

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多賀一晃 (たが・かずあき)

生活家電.com主宰

スマート家電グランプリ審査員。主催する『生活家電.com』を通じ、家電の新製品情報、使いこなし情報他を発信中。過去、某メーカーでAVメディアの商品企画を担当、オーディオ、光ディスクにも精通。また米・食味鑑定士の資格を有する。水、米、パン、珈琲、お茶の味に厳しい。

 インターネットで「にっしん」と検索すると、「ニッシンデジタル(ストロボ、スピードライト、フラッシュ)」「日清食品グループ」「歯科学教育と歯科模型・歯科材料の(株)ニッシン」「日進ワールドデリカテッセン」に続き、1ページ目5番目に「プラズマ処理・電子部品の受託開発なら(株)ニッシンへ」と出てきます。

 この宝塚に本社を持つ、社員数170名の会社が持つ技術が、皆さんが持っているデジタルデバイスを支えていると言うと、ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、まぎれもない事実です。今回は、自社技術を中心にビジネスをしている日本の中小企業をレポートします。

多方面に利用されるプラズマ技術

 「プラズマ」というと何を思い浮かべますか? 「プラズマテレビ」? それとも「プラズマクラスター」? それとも「火の玉の原因」? 「プラズマ」は割と見ることが多い言葉です。

 プラズマとは「物質の状態」の中の一つです。第4の状態と呼ばれます。物質の状態で有名なのは、「固体」「液体」「気体」の3つの状態です。

 第1の状態 固体は分子が動けない状態です。それが「固体」+「熱(エネルギー)」で第2の状態「液体」に変わります。液体では分子がまとまって動くことができます。そして「液体」+「熱(エネルギー)」で第3の状態「気体」です。分子が単独で動くことができます。

 では、「プラズマ」というと、「気体」+「エネルギー」で、作られる状態、固体、液体、気体に継ぐ第4状態です。プラズマ状態では、分子もバラバラになり、「陽イオン」と「電子」が分かれた状態になります。非常に不安定な状態です。

 このため、いろいろなことに応用されます。例えば、高エネルギーなので、光を放ち、低エネルギー状態で安定しようとします。この光をテレビに応用したのが「プラズマテレビ」です。自家発光デバイスで、モノを描写する機能などは優れていましたが、欠点は電気代。プラズマ状態を作り出すため、液晶テレビの2〜3倍もの電気代がかかりました。そして発熱もします。冬でも暖房が要らないと評されるほど。

 化学反応の例の一つがプラズマクラスターです。空気をプラズマ化することにより、活性酸素を作り出し、それを空気中の黴菌、ウイルスなどに当てます。すると黴菌、ウイルスなどの表面タンパク質が反応します。細胞の一部が壊れたりするので、黴菌だと死んだり、ウイルスだと不活化します。

 そんな中に、微細加工の技術があります。

 例えば半導体。半導体の配線は、20世紀中頃、幅10μmレベルから始まります。目に見えない空気中の浮遊物PM2.5が直径2.5μm、黴菌のブドウ球菌が1μmです。これらの4〜10倍ですが、かなりの狭いです。半導体の微細加工によく使われるのが、光です。レジストを被写体物に塗り、光で回路を書く、その部分だけ、レジストが化学変化を起こします。化学変化したレジストを残したり、除去したりして、回路を基板に作っていくのです。精度と光を扱うため、このトランジスターを作る設備は、日本のカメラメーカーが得手にしていました。また光ディスクも似た技術を用い、ブルーレイディスクでは320nmのピッチを出しています。日本メーカーの十八番です。

 それが近年は、14nm。可視光線の波長より全然小さい。このため、電磁波を使います。またこうなると、1つだけ技術があってもダメです。完全に総合力。一社では全部を作り出すことができません。このため、半導体メーカーが、いろいろな専門メーカーの中心で、頑張っています。

半導体より、安価な技術が求められる基板

 半導体ほどではありませんが、似たことが求められている世界があります。それは半導体を載せる基板です。

 半導体のように、世の技術の先頭を走るということは、技術ができると儲かるということです。このため投資をガンガンします。技術開発に力を入れます。そして使う素材もいいものが使われます。 

 一方、基板は、半導体レベルのスペックは必要でありません。しかもコストがかけられない市場です。PC基板だとCPUの半分位。また当然ですが、半導体に比べて、数量も少ないのです。イメージとしては半導体がひまわりなら、基板製造は月見草と言うと言い感じです。

 しかし、基板がないと半導体が意味をなさないのも事実。このため丁寧に知恵を絞って作ります。そんなところで使われるのがニッシンのプラズマ技術です。

 使い方は決まっていません。多いのは、表面改質です。いろいろなものを洗浄するのに純水が使われます。が、対象物の濡れ性が悪いと、水は拡がらず玉になります。そうなると洗浄されない部分が出てくる可能性があります。どころが、プラズマで親水性のイオンを作り、表面に付けると濡れ性が高まります。そうすると水が拡がるので、全域残さず純粋洗浄できるようになります。

処理前
処理後

 

 ニッシンには、困っていることがプラズマで対応できないか、いろいろな人が相談にきます。テストし、使えるように安定した条件を見出し、製造ラインの中に組み込める製造設備を作り納入する。ケース・バイ・ケースですので、製造設備でも同じものを作ればいいと言うものではありません。手間の多い仕事です。

お願いされた技術

竹内社長(左)と、武田R&Dセンター長

 社長の竹内社長は、ニッシンの3代目社長。慶應義塾大学の理工学部卒業のエンジニアです。では、どこでプラズマ加工で頑張ろうと思ったのかと言うと、社長になってからだと言います。1990年代前半。PCが大いに立ち上がろうとしていたころです。大学卒業後、竹内氏は商社に勤めていたことがあり、アメリカ支店勤務を命じられたそうです。場所は、アメリカ 西海岸 シリコンバレー。その時、プラズマに詳しい人がいて、いろいろ教えられたそうです。

 しかし、その当時、ニッシンが持っていた技術は、マイクロ波電源のみ。これは必要とされている電源なのですが、使うところが少ない。かなりマイナーです。それをベースにするとしても、学ばなければなりません。またプラズマ化する時は低圧下で行います。さらにプラズマには、いろいろな方向性があります。光利用、熱利用、化学利用などです。このようにあやふやな状態で、プラズマ技術へと踏み出したのです。

 結果、今があるわけですが、竹内社長は、技術ビジネスに対しユニークな見方をしています。竹内社長と話をしていると、妙なことに気づきます。通常、企業は右肩上がりを好みます。そうだと会社が伸びているわけですから。しかし、これは「今までの延長で成長している」と言うことです。今までの延長と言うのは、わかりやすい話です。読めますし、投資もしやすいです。

 しかし、竹内社長はニッチ市場を目指すと言います。ニッチ市場は時々化けます。 が、それはレアケースで、多くの場合売り上げも大きくありませんし、伸びるのもほんの一瞬ということが多いです。竹内社長は、その一瞬のことを「お祭り」と表現されます。要するに、想定外とするわけです。大企業のように、中長期で伸びる市場だから乗ると言うマーケティングの発想を排除するのです。逆に、新しいニーズがあれば、規模が小さくても乗ると言う感じです。

 市場成長を読むと言うのは、かなり厳しいことです。例えば、5G通信。出るまでは、これがあれば、自動車の自動操縦もできバラ色としていましたが、フタを開けてみると、ほとんどのエリアで使えないし、アプリも変わらない。そして、新しい規格6Gへの期待、興味が膨らんでいます。

 しかし、それでも儲けたメーカーはあります。特に他社に先駆けて技術を作り、肝となる測定器、生産設備の肝となる部分を作っているようなメーカーです。最終的な市場で儲けるのではなく、先行してできる小さな市場を確実にモノにするのです。明日の10億円ではなく、本日の1000万円と言うわけです。

 前述の通り、ニッシンのプラズマ技術は、ずっと持っていた技術ではありません。また、学校で学んだ技術でもありません。ポイントは、使いこなしながら磨いていくことです。そして、新しい技術への乗り換えを、常に考えているのです。そして市場の規模の成長にこだわらないことです。

 これは中小企業ならではの手法です。大企業のだと、一つのビジネスに多人数入れるのが当たり前です。そうなると、規模を狙わなければなりませんので。

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