2024年12月7日(土)

家電口論

2020年7月3日

 とある金曜日、私の友達の一人が10キロほどランニングしました。天気晴れから曇り。最高気温:31.6℃、最低気温:22.7℃。前日はひどい雨でしたので、高湿。じとっと空気がまとわりつく感じの日でした。

 夜に彼と会ったのですが、どことなく元気がありませんでした。その彼、翌日は病院へ行ったそうです。聞いたときは「コロナ?」と思いましたが、「熱中症」だったとのこと。いつも元気でしたから、唖然としました。コロナで運動不足の身体。これから夏になると、無理に運動すると、熱中症も流行しそうです。

 そんな時、富士通ゼネラルが、「ウェアラブル型のエアコン」を発表したとの話が。実はこれ、熱中症対策としても使える、ペルチェ素子を搭載接触型のクーラーだったのです。

富士通ゼネラル「コモドギア」

ペルチェ素子って何?

 「ペルチェ素子」。ほとんどの人にとって馴染みのない名前の素子だと思います。ペルチェ素子というのは、フランスの物理学者ジャン=シャルル・ペルチェが発見した原理を利用しており、薄っぺらい長方形をした半導体素子。片面で吸熱(冷却)、逆面で放熱(発熱)します。ペルチェ素子の外カバーを引っぺがすと、N型半導体とP型半導体が市松模様に並んでいます。

 半導体は、半分しか電気を通しません。それは、価電子帯と伝導帯の間にバンドギャップがあり、エネルギーを与えて価電子帯の電子を、バンドギャップを飛び越し、伝導帯に電子が到達すると動くことができる=電気が流れるのです。それがN型半導体です。この時使うエネルギーは電気でなくてもいいのです。熱でも良いのです。熱を使うのですから吸熱=冷却となります。そしてP型はその逆で、放熱することにより電気が流れます。

 このため、N型、P型が交互に並んでおり、N型から電子を入れた場合、N型半導体の前で冷却。N型とP型をつなげたところで発熱、P型とN型をつなげたところで冷却となります。これがペルチェ素子の原理です。

 小型で冷却機能を持つ素子として、ペルチェ素子はコンピューターCPUの冷却、小型冷蔵庫の冷却、ワインクーラー、医療機器などに使われています。

 利点は、小型であること。空気などを介さず直接冷やせること。騒音、振動がないこと。精度、応答性が高いことが挙げられます。

 逆に、欠点は、エアコン、冷蔵庫などに採用されているヒートポンプよりエネルギー効率が悪いことです。要するに電気喰いなのです。

 熱中症になった場合、まず体を冷さなければなりません。どこを冷やすか、ご存知ですか。首、脇の下、太腿の付け根、足首が良いとされています。これは太い血管が、皮膚近くを走っているからです。身体中を駆け巡る血液の温度を下げることにより、身体全体を深部から効率よく冷やすことができるのです。特に首の頸動脈は、体を冷やすのに最も効率が良いと言われています。

 熱中症は体温が上がりすぎて、体温調整機能がうまく作動しなくなり、体内に熱がたまることです。夏、炎天下の外出などが原因とされています。しかし外出せず、ずっと家で過ごしても、エアコンなどがなければNG。そのためでしょうか、コロナ自粛で、例年より早くエアコンが売れています。

 しかしエアコンは外では使えません。このため、直射日光を避けるために日傘をさす、こまめに水分補給を行う、などが必要です。携帯扇風機もその一つです。しかし、熱い空気をかき回しても余り涼しくないように、必ずしも効果的とは言えません。

 しかも「夏でもマスク」となりますと、身体に熱気がこもりやすい。熱中症にかかりやすい状態になります。そういう意味で、今年は危ない年なのです。

ウェアラブルエアコン

 富士通ゼネラルは、エアコン専業メーカー。このため「ウェアラブルエアコン」と称しておりますが、「Cómodo gear」(以下 コモド)が行うのは空気の温度調整ではありません。しかし、首すじに1つ、頸動脈部に2つ当てられる計3つのペルチェ素子で確実に、体温を下げることができます。

 しかし弱点もあります。ペルチェ素子は、電気喰いなのです。このためコモドは通常のウェアラブルと異なり、首に巻くモジュールからバッテリーへのケーブルが伸びています。バッテリーは腰に装着。いまどきのウェアラブルデバイスとはちょっと違います。

 実は、これは東京五輪用に開発されていたものです。夏のオリンピックで、多くのボランティアも参加します。今の日本の夏は、不注意に外を歩いていると熱中症にかかる可能性があります。それの対策ですね。大会は延期になりましたが、開発した製品は、世に出されたというわけです。反響は新型エアコンより多く、工事関係者を中心に、問い合わせが殺到しているそうです。五輪のための突貫工事では、鳶職が足らず、炎天下どれだけ熱中症にならずに働けるのかが問われましたが、このような状況に対してウェアラブルで体温低下できるコモドギアは極めて有効な手段になると考えられます。

 また、まだ開発中ですが、富士通ゼネラルは、これに各種センサーを搭載しようとしています。バイタル系では「体温」「脈拍」「血圧」などです。動脈からデーターを取り出せるので、とても正確です。これに加え、外界データーを取ります。「気温」「湿度」「不快指数」などを計りますと、その人が置かれている環境に対し、身体がどのように対応しているのかがすぐわかります。装着者が危ない状態なのか、どうかもひと目でわかります。

 残念なのは、開発の経緯がオリンピックという特別な状況想定であったためでしょうか、民生用ではなく、業務用販売する考えであること。かなり高い価格であろうとは思いますが、酷暑の中、熱中症の心配なしに動けるなら、欲しい人は多くいると思います。


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