仕事柄、いろいろな家電を目にします。ある時、いろいろな加湿器をチェックしているとき、思わず手が止まりました。そのモデル、設計はごくありきたりのハイブリッドタイプの加湿器で、超高性能というわけではありません。が、作りが良いのです。箪笥でいうと、職人が吟味した桐で作った総桐箪笥とでもいうべきでしょうか? 日本の良き品質がビシッと詰め込まれたモデルでした。
先日レポートしたVAIOのパソコンの品質(『ソニーから独立した「VAIO」が復活できた本当の理由』)は、コンセプトから求められた高品質。それとは違うのです。この加湿器、品質、特に成型精度がいいのです。
二つの品質
一口に「品質」と言いますが、大きく2つに分かれます。一つは「設計品質」。こちらはそのコンセプトに合わせた、必要な機能を維持するために必要な品質です。素材、外寸、重さ、他、全部設計で規定されていますので、守らなければ意図した商品にならない品質です。
もう一つは「製造品質」です。例えば、樹脂を成形した場合、ゆがみ、寸法ズレが生じるときがあります。それを見込んで設計するので、「設計品質」を守れば機能的には問題は発生しません。
製造品質は、それらのズレをトコトンなくします。想定されたズレどころが、設計値そのものに合わせるということです。要するに精度良くピシッと作るわけです。
製造品質は「ムダにスゴい」ように思えますが、ちがいます。例をあげます。
バブル期の自動車が華やかな時代です。新製品の発表時に、広報車が用意されるのですが、そのクルマには特殊なチューナップがされているという話がありました。目が肥えている評論家に満足してもらえないと、いい記事を書いてもらえませんので、いかにもありそうな話です。実際に乗ってみると、市販品と明らかに違う乗り味。その人は広報に「可笑しい」と詰め寄ったそうです。しかし実際は、同じパーツで組み立てられたクルマだったそうです。
この話のカラクリが「製造精度」。広報が用意したクルマは、設計図通りのパーツのみで組み立てられていたそうです。例えば、四気筒エンジンのピストン。四つのピストンが全く同じ寸法なのと、規定値内ながらちょっと違うのでは、スムーズさが全く異なるのです。このトコトンパーツの精度を上げる方法は、レースなどで用いられる手法です。レースは一点モノで済みますが、量産品はそうは行きません。バラつくのです。同じ製品でも、当たり、外れがあります。
製造品質は、製品を使ってみて分かる品質で、使い心地に影響を及ぼします。
品質が高い理由
さて、私が感心した加湿器を作っていたダイニチ工業は新潟県にあります。加湿器では5年連続メーカー販売台数・金額シェアNo.1のシェアのメーカーです。No.1シェアと聞いて、私は「日本のユーザーは、お目が高い」と思いましたね。こう言う市場ですから、世界一になった中国のテレビメーカーが、品質底上げのため、日本市場に参入。日本で認められようとしています。
ダイニチ工業の前身は、新潟の三条市で昭和32年創業した東陽技研工業です。石油コンロ、石油ストーブなどの製造販売をするメーカーです。そして昭和39年、石油バーナー、石油ふろ釜を製造販売するメーカーになり、名前もダイニチ工業となりました。そして途中、新潟市に移転。以降、「ゆっくり」発展してきた中規模メーカーです。
ここがミソで、ダイニチ工業は、国内で「コツコツ」と頑張ってきた会社です。先日行われた新製品発表会で、社長は次のような内容の発言をされました。
「今のダイニチ工業の主力商品、石油ファンヒーター、加湿器共に、今後総需はジワジワ減るだろう。しかし毎年、地道に商品を磨き上げ対応、ポジションを堅持する。」
これには驚きました。上場企業、No.1シェアを持っていると言うことは、財政は健全なはずですし、投資も見込めます。このため、シェアがNo.1をとっている間に頑張ると言うのが普通です。いたずらに規模を追わないのは、品質維持の手法ではあるのですが、ちょっと迷うところでもあります。
しかし、だからこそ、加湿器と暖房機器(家庭用石油ファンヒーターは、量販店、メーカー販売数量でシェアは12年連続No.1)でやってこれたのではとも思いました。商品の魅力の一つが品質であることは間違いありませんが、品質向上は一朝一夕でできるほど簡単ではありません。その品質を支える要因を解析し、一つ一つ積み上げなければならないからです。
ダイニチ工業の製品は、新しさに満ちたモノではありませんが、コツコツと磨き上げた品質が大きな魅力になっています。