家電口論

2020年10月14日

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多賀一晃 (たが・かずあき)

生活家電.com主宰

スマート家電グランプリ審査員。主催する『生活家電.com』を通じ、家電の新製品情報、使いこなし情報他を発信中。過去、某メーカーでAVメディアの商品企画を担当、オーディオ、光ディスクにも精通。また米・食味鑑定士の資格を有する。水、米、パン、珈琲、お茶の味に厳しい。

 白物家電ではかなり驚く発表が、ロボット掃除機「ルンバ」で有名なアイロボット社から発表されました。ソフトウェアのアップデート『iRobot Genius(アイロボット・ジーニアス)ホーム・インテリジェンス』です。その時感じたのは、IoTが認識されて約5年、ようやくAIでロボット掃除機が、主人のオーダーをきちんと聞く執事、メイドのようになったのかという思いと、この状態に日本メーカーは追いつけるのだろうかという不安でした。今回はAIについてレポートしたいと思います。

「iRobot Genius」とは何か?

フラッグシップの ルンバ s9+。より隅々まで掃除できる様、D字型に変更。タワー型充電台は、内部の紙パックにルンバの集めたゴミを移し、半年位ゴミ捨て不要にする。

 このレポートの中では「AI」を人工知能。ビッグデーターを用いて、問いに対する解答を出すものと定義します。似た言葉で、「プログラムソフト」というのも使います。こちらは、条件設定によっては解答が変わるものの、出された問いに対しては、基本同じ答えをというアウトプットを出します。要するに今までの家電に搭載されているプログラムソフトのことを言います。

 AIは、「センサーで取った情報」を「膨大なデーターベースを基に」解析、そして「最適解」を出します。AIは膨大な情報と高速演算が必要ですから、家電本体に載せることはできません。このためほとんどの場合、ネット上に設けられたクラウド上に設けられます。家電から情報を受け取り、出た答えを、家電本体に返します。これが一般的なAIです。そうして動きます。本来なら、人の頭脳のように、家電にAIを載せたいのです。タイムロスもありませんし、通信が遮断された時でも問題が出ません。

 一方、プログラムソフトは、本体に積まれています。こちらはいつも同じ動作をします。人から見ると「自動」と呼ぼれるものです。こちらは考えません。決まった法則に従うだけです。AIを使う家電が思考する「人」に近いなら、こちらは本能だけで動く「虫」に近い。アンリ・ファーブルは、昆虫記の中で、どんな環境下でも丸い球を作るスカラベをすごいと褒めていますが、それは本能というプログラムにより昆虫が動くからです。人だと、効率が悪いなどの理由で、方法を変えることは日常茶飯ですが、昆虫は違います。同じことを完遂しようとします。ちょうどそれは、IoT化されAIを駆使する前のルンバの動きを思わせます。

 さて今からの家電は、このようなAI制御をすることになるとされていますが、なぜでしょうか? 最も大きな理由は、「カスタマイズ」するためです。自分専用仕様、自分の生活スタイルに合った家電にするためです。

 例えば、ロボット掃除機に掃除をさせた部屋を見せると、AさんとBさんとでは受ける印象が違う可能性があります。Aさんは「十分キレイ。良し」としても、Bさんはダメだししたりします。家事というのは、評価が人によって変わりますので当たり前です。全員が全員、100点満点などはあり得ないのです。

 それを満点に近づける方法としてあるのは、使う人に合わせること。つまり使う人が満足するように働くのです。これが家電のカスタマイズです。ただ、これは最終的な目標であり、その間の道はいく通りもあります。

iRobot Geniusでどんなことができるようになったのか?

 今のルンバの最高モデルには、ほとんど欠点はありません。特に、初回使った時はあまりのパフォーマンスに、文句を言う人はまずいないでしょう。

 でも、家で使い込むと、不満が出てきます。例えば、自分が自宅にいる時、同じ部屋でルンバが動いていると、うるさくて仕方がない。これは「人がいない時に、掃除することを前提」に作られているためです。これは多くの場合、スケジュールを決めると「自動」で対応可能です。

 また、急に掃除しなければならない時もあります。例えば、パンを食べてパン屑を床にこぼした時などは、足裏にくっつく可能性がありますので、とりあえずお掃除ですね。この時、床全体を掃除するなどもってのほか。食後ですから、その部分だけさっさとお掃除してゆっくりしたいもの。これはロボット掃除機の「自動」では出来ないことです。普通ならここでスティック型掃除機の出番です。大金を支払ったロボット掃除機は手をこまねいて見ているだけでした。

 そのロボット掃除機にできないことをさせるのが、iRobot Geniusです。

 主な機能は、①Where=掃除する場所の認識、②When=掃除するタイミングの推定と提案、③How=掃除する方法をAIが提案。

 全部説明すると長くなるので、①Whereの物体認識清掃(業界初)を例にとり説明しましょう。物体認識というのは、光学データからそこにある物が、テーブルなのか、椅子なのか、ソファなのか、AIが認識して、「そこはテーブルだからきっとパン屑が落ちているはず、丁寧に掃除して。」と指示を出すということです。

見取り図にルンバが作成したマップを重ねたところ。ソファー、テーブルなど下に潜り込める家具に関しては、ルンバはないものと判断し、マップ掲載しない。

 今どきのロボット掃除機は、デジカメを搭載し光学データを撮りますが、それを本体外に出すことはしません。凹凸などの位置データだけにします。そして元データは破棄。そうしないと、セキュリティ上問題が出るためです。送られたデータを基に、4つ足の位置、そして足の太さを基にビッグデータから判断します。

 これができるということは、子どもがご飯を食べる毎、テーブル下だけを掃除するというスティック型掃除機でしてきた対応を、ロボット掃除機ができることになります。そうロボット掃除機=自動で全体を掃除する、という従来の機能に加え、好きな時に、好きな場所を掃除する、と言う機能が加わったわけです。今までロボット掃除機とスティック型掃除機と分けていた端境がなくなったのです。

 そして、Amazon Alexa、Google Homeがある場合は口頭で提示するだけで、あとはお任せ。またスマホで指示を出すことも可能です。今まで小さくても部屋単位での掃除しかできなかったロボット掃除機が、実に細やかになるわけです。これがiRobot Geniusの力です。

iRobot Geniusを搭載したロボット掃除機ルンバは、今までと別物

 このiRobot Geniusを搭載したロボット掃除機ルンバは、汚れたところを掃除しに行くわけですからスティック型掃除機の機能も持ったとも言えます。つまり、アップデートしたロボット掃除機は、「自動」で掃除するというロボット掃除機というカテゴリーの中に収まらなくなるのです。

 AIを搭載したロボット掃除機というのは、それ一つで事足りる掃除機になっていたのです。

 最強掃除機の誕生でと言ってもいいでしょう。もうユーザーは、自分で掃除することはありません。口もしくはスマートホンで指示を出せば、その場ですぐに、もしくは予定通りに掃除をしてくれます。

 これが「無料」アップデートでできるということは、すごいことですし、このアップデートはGeniusの名にふさわしいと思います。

家電のビジネスモデルは変わるのか?

 アップデートで、常に最新モデル化できるというのは、IoT、AIが家電に導入された時から言われてきたことです。今まで、このアップデートの分が最新モデルに取り入れられ、販売されてきました。

 アップデートは多くの場合、無料で行われます。今回のケースも無料です。しかしそれでは、メーカーは儲かりません。iRobotの方も今後は決まっていないと言っています。考えられるのは、「有料アップデート」。または、「アップデート制限」です。

 実は、今回、フルアップデートできるのは、最新モデルのみ。

 少し前に発売、現在も販売しているモデルは一部アップデートとなります。またハイグレードモデルより下位のモデルはアップグレード自体できません。これはセンサー、CPUなどの能力が足りないためです。このようにアップデートは、完全フリーとはいきませんので、それを利用して商売すると言うことです。PCなども同じようなビジネスモデルです。

 では逆に今回iRobotが無料アップデートを行ったのはどうしてでしょうか?

 これは、iRobot社が考えるロボット掃除機=スマートホームシステムの掃除機は、緊急の掃除もできなければならないと考えるからです。いないうちに部屋を掃除しておいてくれるだけでは、用が足らないと考えているからです。iRobot社が高い理想を持っていたのは知っていたのですが、よもやここまでとはと言うレベルです。

 数年前、「ロボット掃除機は、どこまで進化できるのか」という問いを、いろいろなメーカーに投げかけたことがあるのですが、理想の清掃を100点とした場合で、スティック型掃除機なら95点、ロボット掃除機は良くて85点でした。要するにほとんどのメーカーはロボット掃除機の未来をある程度見限っていたわけです。今回は追いついたわけでiRobot社の信念を感じます。

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