2024年11月24日(日)

家電口論

2020年10月14日

なぜ日本にiRobot社ができないのか?

 モノづくり日本と言われ、家電メーカーも、大企業から中小企業、工房まである日本ですが、どうしてルンバのようなものが作られないのでしょうか? 全メーカー作るなら「鉄腕アトム」と言うことで人型ロボットを目指しているからでしょうか? 日本が技術的にAIに弱い、技術を持っていないという話はあまり聞きません。

 私は、AIは人の見方、考え方が大いに関係しているのではないかと思っております。

 そして、根源的な問題は日本の教育にあるのではないかと思います。理由は、日本の教育は「解答のある問いを解くことばかり教える」からです。能力が高い人でも、それをいろいろなことと結びつけ発想、展開していくことを教えてくれないのです。知識はある程度持っているのだが、それを有効に活かすことができないと言うわけです。そして出来ない人に限って声高に新しいモノを否定するところがあります。

 今回の「ロボット掃除機」。「掃除を、それ一台でできるようにしよう」と言う発想をすると、iRobot Genius搭載のルンバの発想は出てきます。しかし、それは、「それ一台で」という、今の専門分野毎掃除機を持つという現実とは別の目で見ているからです。現状しか考えられない人からは、中々そんな発想は生まれません。

 日本メーカーの多くは新モデルを開発する時、「決められた枠」の中の弱点を徹底的に潰す方法をとります。日本の教育の方針は基本「欠点潰し」です。この癖が出るのですね。そしてユーザー調査。ユーザー調査は、あくまでも、その時点のユーザー目線です。別の視点とか、遠い未来を示すものではありません。

 日本の家電は、微細なところまで磨き抜かれているのに、未来につながる感じが少ないというのは、そんなところに由来しているように思います。

 別の視点から製品開発をする時、最近日本の多くのメーカーが、サラリーマン社長に変わったのも大きな問題です。サラリーマン社長の多くは、保守的です。「未来より今」がとても重要なのです。2〜3年後ならともかく、10年後などは不確か。何より自分がいない可能性すらあります。不確化なものにお金を出せないというわけです。

 このような風潮で一番困るのが、基礎研究、開発です。10年単位の研究、開発ですから、すぐには儲かりません。それどころか、研究を中止することにより経費節約になります。未来の選択肢は減るのですが、その時は儲かります。そしてそのお金でM&A。しかし、それで済むのでしょうか? 今まで世界の最先端を行っていた技術が、時が経つに連れ遅れが目立つようになってはいないでしょうか。

 金融機関の合併による内紛ドラマは、いろいろな人間模様があるので人気ですが、M&Aの現場も似たところがあります。金と労働力を回すというのが経済なら、経済的にはイイのでしょうか、モノを作るという意味では、多くの場合マイナスです。

 これに対し、iRobot社は、自分の作りたいものがはっきりしている人が創始者となり、引っ張ってきました。はるか遠いゴールまでの道程を考え、キーポイントの技術ができる毎、新製品として世にフィードバックして利を上げてきました。要するに長期計画を成し遂げてきたわけです。しかも専業ですから、力を抜くことがありません。

 昭和の日本メーカーなら、自分のブランドが後塵を拝した場合は、「こなくそ!」という感じで自社技術を磨き、良いものを出していたのですが、今はそうではありませんね。

 その上、主流から外れると予算がありませんので、研究、開発もままなりません。特に、最新技術は、設備、材料も嵩みます。平成に青色LEDを開発した中村氏も予算不足に泣きました。

 日本は、政府、メーカー、教育機関ともに、技術に対する考えが甘く、結局人材が海外流出しています。発想の違いだけでなく、技術研究、技術開発のあり方を見直さないと、日本の「失われた年月」というのは増える一方のように思います。

 日本の若者の1/3は公務員志望だそうで、未来を目指して漕ぎ出すには不安がありすぎるのが、今の状況とも言えます。彼らのほうが令和という時代を肌で感じているのでしょうね。

  
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