Wedge REPORT

2020年12月26日

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多賀一晃 (たが・かずあき)

生活家電.com主宰

スマート家電グランプリ審査員。主催する『生活家電.com』を通じ、家電の新製品情報、使いこなし情報他を発信中。過去、某メーカーでAVメディアの商品企画を担当、オーディオ、光ディスクにも精通。また米・食味鑑定士の資格を有する。水、米、パン、珈琲、お茶の味に厳しい。

 11月、日本地域情報コンテンツ大賞 2020が発表されました。全国3000誌あると言われているタウン誌、フリーペーパーのトップを決めようという催しです(エントリーしなければいけませんが)。今回、賞を取ったコンテンツを幾つか紹介しながら、紙媒体を使う意味をレポートしたいと思います。

街の活性化を狙い創刊された「船場ランチ」

(株)エフィール(大阪府)。グルメ&クーポン部門 最優秀賞

 タイトルを聞いた時、微妙な違和感に囚われた一冊です。「船場」は江戸から昭和初期まで、大阪でも屈指の商業地であり、文化の発信地でもあった所です。例えば、船場言葉と言うものがあり、また谷崎潤一郎の「細雪」の舞台でもありました。裕福な商家が多く、大阪のボンというと「船場かいな」と言うくらいのところ。しかし、それらは過去の栄光。今、船場というと昔の広域に渡った船場エリアではなく、町名、駅名に船場と付くところだけを指すようになっているそうです。

 ちょっと調べると面白いデータがでてきました。1925年(大正末期)の人口6万人。1995年3700人。現在は回復しつつあり、1万5000人を越したそうです。それくらい一時は寂れたのです。

 当然、再開発も行われています。面白いのは、現地の船場の企業、住民らで作っている船場倶楽部が参加している点です。積極参加だそうで、倶楽部活動の一つとして、未来の街姿をコンペしたそうです。最優秀が「食品ロス ゼロの街」。食が出てくるところは、さすが大阪です。

 その食、中でもランチに絞り込んで作られたのが、「船場ランチ」という小冊子。古い時代の船場エリアをカバーして、コロナで厳しい飲食店のサポートです。一般的にデイナーはネットで調べていくけど、ランチは近場、口コミが一般的です。そのニーズを拾い上げたものです。この冊子、まず目次がいいですね。「新店」「洋食」「和食」「パスタ」「揚げ物」「ラーメン」「うどん・そば」「カレー」「丼」とあり、まるでメニューを見ているよう。写真もキレイですし、自分の食欲がどの方向を向いているのかでマッチさせることができます。

 あとランチですから、「和食」などは「日替わり定食」が出ています。ここは杓子定規に取らず、信頼されているお店と捉えればいいです。値段も大きく明記されています。東京に比べると、200円程度安い!また箸休めのような、バナナジュースの挿入記事もいいです。会社の机の引き出しに一冊あると、便利です。

 「大阪は、何を喰っても美味いんや。だからガイドブックがないねん。東京はまずいからガイドブックがいるんや。」と漫才の中で言ったのは、伝説の漫才師、横山やすしですが、船場ランチを見たら、「美味そうやな。食べに行こうか。」というのではないでしょうか?そんな感じの小冊子です。

副職 雑誌編集が一人で作る「能登」

「能登」編集室(石川)、タウン誌部門 優秀作品

 ページ数のある季刊「能登」。地元の本屋さんで販売、手に入れることができるそうです。2020夏号で40号を数えます。実に立派な「雑誌」なのですが、これ経塚幸夫さんが副職で、一人で作られている雑誌なのです。

 経塚幸夫さんの本職は、お坊さん。と言っても能登ですから、人口もそれなりですから、毎日のようにお葬式があるわけではありません。その空いた時間で活動されているそうです。というのは経塚さん、お坊さんになる前の前職が、新聞記者。客観的な眼は、よいレポートには欠かせません。

 この号の特集は『「一日一客」の宿』と『能登町に「イカの駅つくモール」オープン』と、タイトルを見ただけで、「ちょっと見せて」と言いたくなるような感じです。写真よし、記事よしです。

自治体が本当に作ったの?
「クレヨンしんちゃんのなるほど春日部マガジン」

春日部市シティセールス広報部(群馬)、自治体PR部門 優秀賞、読者投票部門第一位

 こちらの雑誌を作ったのは春日部市シティセールス広報課。シティセールスとは、「その地域のさまざまな資源を買ってもらい、人、カネ、 企業などを地域に取り込み、地域の力を高めるための販売促進(プロモーション)活動」を指します。

 そのサポートしているのが、クレヨンしんちゃん。野原一家は春日部市に住んでいますし、しんちゃんの通うひまわり幼稚園も春日部市にあります。今、地方の最大の問題は、人口減。できれば、多くの人に引っ越してきて欲しいのです。それはクレヨンしんちゃんで名高い春日部市も同じです。

 冊子には、当然のごとくマンガも掲載されているのですが、強みはマンガに合わせていることです。マンガの最大の特徴は分かりやすさです。強調したいものだけを書くこともできますし、また目線も低くなります。掲載されている給食の記事など、大人と子供の目線のバランスがとてもいいです。

 ちょっと足らないのは迫力。春日部市には、地底50mにある世界最大級の地下放水路があるのですが、写真が小さくて物足らない。「安全」のコーナーにあるので、仕方がないし、このために移住する人はいあにでしょうから、目的からすると、写真があればいいのですが、こんな面白い素材を目一杯使わないのでは、ちょっともったいないと思います。

 それはさておき、マンガの利点を最大に活かした感じがするこの冊子。自治体自体の役人くささ、理論くささは、ありません。上から目線が多いお役所発行の発行物において、あまりないタイプです。いろいろな自治体に参考にしてもらいたいものです。

ちょっと外出したくなる! 「ちょこたび埼玉」

(一社)埼玉県物産観光協会(埼玉県)、観光部門 観光庁長官賞

 東京に住んでいる自分として、神奈川、千葉、埼玉は宿泊して行くところではありません。どちらかと言うと、気が向いた時、プラッと出かけるエリアです。「ちょこたび」というのはいいタイトルですね。

 しかし、こうも近いと求めるのは、観光より体験ですね。観光は多くの場合、そこにいること自体が大いなる体験なのですが、そこまでの場所はそうあるものではありません。しかも、神奈川、東京、千葉、埼玉は、県境はあるものの、どちらかと言うと均質化しています。特に再開発後の駅前は、ロータリーがあり、有名なチェーン店が並んでいます。歴史的に有名か、名物でもなければ違いなど、そんなにはありません。

 そうなると、新しい「体験」ができますというのはとても重要なことなのです。これは欧米の観光に近いやり方です。日本でも特殊な体験ができるスポットは人気があります。

 逆に言うと、今、日本はいろいろな体験スポットが増えつつあります。今回の特集は「発酵」。発酵は、そのエリアにある酵母、菌で、決まってきます。それ位、ローカル性に富むモノです。日本の中で有名なのは味噌ですね。名前に地名がつくものが実に多い。また日本酒もそうですし、醤油、地ビールもそうです。それの体験です。どんなところで、どんな風に作られているのか、そして味はどうか。単にお食事処で味わうより、理解が進みますし、同時に土地の理解も進みます。

 それが、遠くても2時間もあれば、到着するところにあるのですから、この小冊子を片手にちょこっと行ってみたくなります。

表紙から裏表紙まで、まるごとアジフライ「meets! まつら」

長崎県松浦市(長崎県)、大賞、自治体PR部門 優秀賞

 松浦市は長崎県の北エリアにあります。東には有田、唐津と全国的に有名な焼き物の町。そしてこの松浦市は、何が有名かと言うと、アジ。魚のアジです。アジ水揚げ量が日本一なのです。

 アジは身が美味しいためにアジと名付けられたそうですが、本当にどうやって食べても美味しい。しかし、一つ選ぶとしたらアジフライでしょうか? マンガ「美味しんぼう」の中でも「庶民の味方、アジフライ」と言われ、山岡は実に美味そうに食べています。

 これらを合体させたのが、松浦市の2019年4月に行われた「アジフライの聖地」宣言。自治体自ら「聖地」と言い切っていいのか?という問題は、横に置いときまして、以降、PR誌「meets! まつら」は、アジフライの福音書と化します。特集ではなく、隅から隅までアジフライなのです。

 実は2019年も「meets! まつら」はコンテンツ大賞にエントリーしましたが、このハイテンションでアジフライを掲げ続けることはできないだろうという、継続性を理由に、すごい出来だと認めつつも、賞を送るのを見送ったそうです。が、2020年 エントリーした号も見事に隅から隅までアジフライ。今回は東京のアジフライを取り上げたり、松浦版タルタルソースのレシピを掲げるなど、お店紹介だけでなく、活躍の場も拡がっています。

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