2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2021年3月6日

「支援金」を渡す人が増えれば
支援事業者が儲かるシステムに

 起業支援事業は、委託を受けた支援事業者へ、国から創業者一人あたり340万円を限度に支払われた。そのなかから創業者には、事業計画に応じて「起業支援金」として最大300万円支給できた。

 しかし、当時の支援事業者の公募資料を見ると、創業者への支援金の上限が概ね200万~250万円に設定されていた。つまり、各支援事業者は、管理費を含めて1人あたり90万~140万円をプールできたのだった。

(出所)内閣府や支援事業者による資料を基にウェッジ作成 写真を拡大

 したがって、支援する創業者が多くなるほど、支援事業者の手元に残る資金が増える仕組みとなっていた。逆に決めた人数よりも創業者が少なければ、一旦手にした資金を返金しなくてはならない。支援事業者は独自に審査会を開いて創業者を選定することになっていたが、最初に設定した枠を埋めきれず、3次、4次と募集・審査を繰り返し、時間切れとなったケースもあった。

 このように、支援事業者は低リスクで多額の資金を得られた。それを目当てにしたのか、被災地以外の地域からもNPOや企業などが参入していた。内閣府の条件では支援事業者は「被災地に拠点を置くNPO等」と規定されていたが、選定された12事業者のうち、被災3県を所在地とするのは5事業者と半分にも満たなかった。被災地に数年間にわたり継続する事務所を置けば、地域外であっても許されるというカラクリがあったからだ。

 筆者は13年に、宮城県石巻市を中心とする三陸沿岸部で、起業支援事業を展開する7支援事業者について調査した。その結果わかったことは、第一にほとんどの支援事業者が、単独で業務を実施できる体制ではなかったことだ。映像やデザインといった文化事業を中心に、それぞれの得意分野を持つ4団体を集めてコンソーシアムを組んでいたり、創業支援のノウハウを持つ県外の事業者に実質的な業務を委託したりしていた。7支援事業者のうち、5支援事業者がこのどちらかの形をとっていた。

 第二は、支援ノウハウを被災地へ継承することを目的に活動していなかったことだ。これには二つのケースがあった。一つは被災地以外の組織がノウハウや人材を現地に持ち込んで、事業を実施するケース。この場合、事業終了とともに撤退してしまえば、被災地には受け皿となる組織がないため何も残らない。もう一つは、被災地の事業者が外部組織のノウハウや人材に頼り、実質的な事業を任せるケースだ。この場合でも、被災地の組織に受け皿となる人材がいないため、ノウハウの継承は起こらなかった。

 第三は、事業終了後の現地での活動が不透明ということ。被災地域以外の支援事業者は、被災地に数年間にわたり事務所を置くことが条件となっていた。ところが、事業終了後には実質的に撤退し、創業者が置き去りになっているケースが目立った。

 これらの結果から考察すると、支援事業者の多くは長期的展望を持って活動していたとは言い切れないと考えられる。


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