最終的に593人の創業者が生まれたが、筆者が13年と15年に石巻地域で行った実態調査では、創業者の6割が平均月商50万円未満で、従業員も1~5人という小規模な事業者が多かった。創業動機を尋ねると「復興に貢献したい」という社会的動機は強いが、「高い収入を得たい」という経済的動機は弱かった。全般的にみると、業績拡大よりも安定成長を望む創業者が多く、事業の成長によって地域経済の発展を促すといった意志は弱かったようだ。
このような意識が原因となっていたのか、石巻地域の創業者64人のうち、1年後も事業を継続していたのは55人、企業生存率は85%だった。『2017年版 中小企業白書』によると、日本では起業1年後の企業生存率は95%であり、それと比較すると10ポイントも低い結果となっている。さらに本稿を執筆するにあたりネット上ではあるが、事業を継続しているかどうか調査したところ、64人中24人が継続していたが、残りの6割は転廃業もしくは活動実態が不明だった。
現在も事業を継続している創業者は、自分の事業の将来について、明確なイメージとゴールを持っていたと考えられる。例えば、宮城県内2カ所に事業所を構えている「一般社団法人りぷらす」は、「大震災が襲った宮城県石巻市に、超高齢化社会を支えるモデルをつくる」と宣言し、介護事業を創業している。「イトナブ」は「震災後10年で石巻から1000人のIT技術者育成する」をテーマに創業し、これまで25人もの若者をIT技術者として採用している。このように、課題とゴールを明確に持って起業した創業者は、事業を継続しているだけではなく、地域にも貢献をしている。
被災復興という社会的課題の解決と、収益性を同時に実現するには、創業者自身が明確なゴールを描いていなければ、困難なことだ。この困難を解消するために、被災地以外の組織が持つ創業ノウハウを活用することは妥当な判断といえる。ところが、被災地では起業支援事業の終了とともに、それまで支援に携わっていた人材の多くは、ノウハウを被災地に継承しないまま、「金の切れ目が、縁の切れ目」とばかりに姿を消した。
今回のような創業支援は、質はともかくとして、多くの創業者を生み出す「数を撃つシステム」としては有効だったといえる。ただ、そこで輩出した創業者を「育成するシステム」までは想定していなかった。そのため「やりっぱなし」という印象はぬぐえない。
自治体が平時から
未来の産業ビジョンつくりを
このような失敗を繰り返さないためには、平時から地域の実情に精通した自治体が、有事の際の産業政策として、創業支援の在り方を具体的に計画しておく必要がある。今回の起業支援事業の教訓から得られる支援の在り方は二つある。一つは「外部からノウハウを移転し内発的な成長を目指す」こと、もう一つは「ノウハウを持つ外部組織を呼び込み、それに依存する」ことである。考えるべき課題は、これら二つの在り方を両極に置いて、復興の時系列に応じてどの位置を取るのか決めることだ。そのためには、地域の未来について、明確なイメージを持つことが鍵となる。
例えば、仙台市は震災後、いち早く「日本一起業しやすいまち」というスローガンを掲げた。そして、地域内外の専門家と協力しながら、経営相談や創業者の集まる場づくりなど、ソフト面での支援を充実させている。当初は外部に依存したのかもしれないが、現在は官民あわせて地域の創業支援組織が積極的な支援を行っている。
災害大国と呼ばれる我が国では、地域が有事の際、どこに焦点をおいて産業の再生・成長を図るのか、平時から考えておく必要がある。そして、いざ事が起こった際には、地域・自治体がイニシアティブをとって国に提言していくことだ。これからの地方は国からの支援を待つのではなく、明確な地域の未来像を描き、信念を持って提案・実行していくことが求められる。東日本大震災の時のような、「やりっぱなし」の創業支援を繰り返してはならない。
■「想定外」の災害にも〝揺るがぬ〟国をつくるには
Contents 20XX年大災害 我々の備えは十分か?
Photo Report 岩手、宮城、福島 復興ロードから見た10年後の姿
Part 1 「真に必要な」インフラ整備と運用で次なる大災害に備えよ
Part 2 大幅に遅れた高台移転事業 市町村には荷が重すぎた
Part 3 行政依存やめ「あなた」が備える それが日本の防災の原点
Part 4 過剰な予算を投じた復興 財政危機は「想定外」と言えるのか
Part 5 その「起業支援」はうまくいかない 創業者を本気で育てよ
Part 6 〝常態化〟した自衛隊の災害派遣 これで「有事」に対応できるか
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