脱税をすすめたトランプ
この点に関連して、大きな話題となったのが、トランプ前大統領だった。
トランプ氏は去る2016年米大統領選討論会の場で、ヒラリー・クリントン民主党候補から「トランプ候補は過去、自らの納税申告内容の公表を拒否してきただけでなく、たまに公表した何年か分に関しては、連邦所得税を支払っていなかったことが判明している」と追及されたのを受けて、「それだけ自分は賢いことを意味しているThat makes me smart」とやり返した。しかし同時に、億万長者を自認する同氏が実直な一般の納税者に「脱税のすすめ」を示唆した重大発言だとして、マスコミで大問題となった。
実際にトランプ氏は脱税、過少申告を繰り返してきた実態が、ニューヨーク・タイムズ紙の調査報道で暴露されている。
同紙報道によると、トランプ氏は:
- 過去15年のうち10年分の確定申告の際には、不動産関連取引での損失が収益をはるかに上回ったなどの理由により、所得税を全く払わなかった
- 2016年、2017年の両年については、支払った所得税はわずか750ドルだった
- それ以外の過去18年間については、9500万ドルの所得税を納入したが、そのうち「企業損益」などを理由に7290万ドルもの還付を受けた―ことなどが明らかになっており、その後、バイデン政権下の司法、財務当局、上院歳入委員会などが、こうした同氏の納税実績について不正がなかったかどうか、徹底的な洗い直しに着手している。
いずれにしても、アメリカでトランプ氏のような個人事業主にからむ税申告漏れ、脱税行為は後を絶たないことだけは確かだ。昨年までの10年間における脱税総額は最低でも3兆900億ドルと推定されている。その中には、昨年、20億ドルの脱税容疑で起訴されたソフトウェア企業(本社テキサス州)の最高経営者ロバート・ブロックマン、890万ドルの脱税で有罪判決を受け、現在服役中のTV番組司会者マイケル・ソレンティノら著名人も含まれている。
個人のみならず、企業の法人税関係の申告漏れも大きなウェイトを占めており、その額は毎年1888億ドル規模に達している。中国(668億ドル)、日本(469億ドル)、インド(412億ドル)、ドイツ(150億ドル)などに比べ、断トツ1位をキープし続けている。
しかしその一方で、個人の人権保護の主張は年々高まりつつあるだけに、徴収活動の性急な強化は、再び市民の反発を招きかねず、今後、IRSとしても善後策めぐり暗中模索を強いられることになるとみられる。
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