税収減の反面、昨年以来、国家財政赤字はより一段と拡大しつつある。
財務省が去る12日、公表したところによると、今会計年度第1四半期の財政赤字は、コロナ対策追加支出、コロナ禍の影響を受けた経済活動停滞による税収減などの要因により、前年度比倍増の1兆7000億ドルにも達したという。
こうした状況下だけに、税収増を図ることは喫緊の課題となりつつあり「徴収態勢改善に支出する1ドルごとに5~7ドルの増収が見込める」とのレティグ長官の証言は、公聴会出席議員たちの間にも大きなインパクトを与えた。
ただ、税徴収担当部門のスタッフ増員だけで徴収漏れの根本的問題解決が保証されるわけではない。納税者権利が連邦法で徹底して保護されているだけに、査察活動強化などにもおのずと限界があるからだ。
厳しい税取り立てには制限
ひと昔前までのアメリカでは、税収増を図ることがIRSの主要任務primary missionと位置付けられ、たえず脱税、虚偽申告などに目を光らせる調査官、徴収官は必要に応じ、絶大な権限を背景に抜き打ち的立ち入り検査、家宅捜索にも乗り出した。しかし、市民権運動が始まった1960年代半ば以降、個人納税者の権利・立場擁護要求と、従来の当局による強権的調査・徴収活動に対する批判が次第に広がっていった。やがてIRS組織そのものの見直しを求める市民運動が全米規模へと拡大した結果、ついに1998年、連邦議会で「IRS改革法」の成立となった。
「Restructuring and Reform Act of 1998」と呼ばれる同法は、その名の通り、IRSの構造を根本から組み替えたものであり、従来の「課税と徴収」に重点を置いた機能を「納税者サービス」へと抜本的に転換させた点で革命的というべきものだった。
そしてその結果として、IRS内には「納税者擁護局」「不服審査部」「首席法律顧問官」など納税者からのクレーム対処、過度の査察活動監視など“お客に優しい”関連部局が大きな役割を担うようになったほか、納税者、個人事業主などに対するさまざまなサービス提供担当グループも新設された。
査察官による令状なしの抜き打ち的立ち入り検査なども禁止された。しかし、厳しい税取り立てには制限が加えられる一方、要員数も削減されてきたことで、税徴収漏れは一段と膨れ上がる運命にあった。
さらに、サラリーマン給与の税天引き制度が普及している日本などとは異なり、あくまで自己申告が慣行化しているアメリカでは、市民が普段から税逃れ、過少申告の誘惑に駆られやすくなるという問題がある。
IRSデータによると、毎年、税当局による督促などを待たずに、納入期限内に問題なく申告する「自主的納税者」の割合は、「83%」程度だ。残りの「17%」の納税対象者は、何らかの納税忌避者か、納入遅滞者と受け止められている。