2024年12月22日(日)

Washington Files

2021年4月12日

 低迷続く米共和党が各州で起死回生狙った投票制度“改悪”に一斉に乗り出した。危機感抱くバイデン大統領はじめ与党民主党がこれに猛反発、対抗措置として抜本的連邦改革法案の議会成立を急ぐなど、かつてない激しい攻防が展開されている。

(Prostock-Studio/gettyimages)

 「実にUn-American(非米的)な行為だ。断じて許せない」―バイデン大統領は去る3月25日、就任以来初めてとなる公式記者会見でこう気色ばみ、共和党多数のジョージア州議会が可決した投票規制法案に署名したケンプ同州知事を名指し非難した。

 「Un-American」という表現はかつて、1950年代当時、「反共主義の旗手」を自認するジョー・マッカシー上院議員が国務省の一部リベラル派職員たちをつるし上げ“赤狩り”運動を広めた際にひんぱんに使ったことで知られる。

 世界でも類の見ない愛国主義の盛んな米国だけに、一般市民の心情をかきたてる際にしばしば使われてきた。大統領が今回あえて、この表現を使ったことは、裏返せば、共和党の一連の動きに対する真剣な危機感の現われでもある。

 昨年11月の大統領選以来、政権明け渡しのみならず、上下両院でも多数支配を民主党に奪われ、いわば“丸裸”状態となった共和党はそれ以来、来年の中間選挙および2014年大統領選での捲土重来を期した奇策を練り上げてきた。それが、各州における有権者の政治参加を極力規制する「投票制度」改革であり、同党が多数を制する30州近くの州議会における関連法案提出だった。民主党から見れば黒人、ヒスパニック系有権者を狙い撃ちにし投票所から足を遠ざける「改悪法」であり、「反民主主義」的動きにほかならない。

中間選挙での議会指導権奪回

 このうち、最も厳格な投票規制措置を打ち出したのが、南部共和党拠点州ジョージア州だった。同州は今年1月実施された連邦上院議員特別選挙で、激戦の末、民主党が2議席を奪取、その結果、共和党が上院本会議で主導権を失ったいわくつきの州だけに、同党司令塔である「全国共和党委員会」(RNC)も、来年改選対象となる1議席の奪回を至上課題として掲げてきた。

 その改革内容は①不在者投票の際のID提示厳格化②州内の投票ボックス設置数の削減③投票結果最終認証の権限を州務長官から州議会任命の選挙委員会に移行―などからなっており、州内人口増加が目立つ民主党寄りのマイノリティ有権者の投票動向に少なからぬ影響が出ることは必至と見られている。

 前回大統領選ではトランプ氏が最後までジョージア州での敗北を認めず、州務長官に対しホワイトハウスから直接長電話し、「選挙結果を否認せよ」と圧力をかけたが、聞き入れられなかった。しかし、もしその時点で、投票制度改革により州議会任命の選挙委員会の裁可次第となっていた場合、同州での選挙結果は覆されていた可能性もあった。こうした経緯があっただけにトランプ氏は、改革法案に署名したケンプ州知事に同日、「祝賀メッセージ」を送り、「州議会は自分が主張してきた(選挙略奪の)指摘の正しさをようやく理解した」とたたえた。

 共和党はジョージア州のほか、アリゾナ、テキサス、フロリダ、アラバマ、ウイスコンシン、ミシガンなど、いずれも州議会で同党が多数を占める他州でも一斉に、郵便投票、期日前投票、不在者投票などの規制に乗り出しており、ワシントンポスト紙の集計によると、各州で提出済みの関連法案はこれまでに250本以上にも達している。

 共和党としては当面の戦略として、来年中間選挙での議会指導権奪回、とくに下院で最低でも5議席上積みし、多数支配を獲得するのが至上課題だ。もともと中間選挙では例年、政権与党が議席を減らす傾向が目立つだけに、もし逆に、民主党が両院において勝利を収めた場合、共和党は次期大統領選でも劣勢となり、当分の間、政権から遠ざかりかねないとの危機感がある。


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